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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」(10月19日)

グローバル化により無意味化進む国家と企業 資本再生産を妨げる、効率の悪い“乗り物”に

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

 金融バブルを繰り返すことがわかっていても、つまり、経験的に、経済を成長させるマネーストック(日本銀行を含む金融機関全体から、経済全体に供給されている通貨の総量。通貨残高ともいう)の増加につながらないことを承知で、マネタリーベース(日銀が供給する通貨)を増やす金融緩和(量的緩和はその最終手段である)を繰り返えし、バブルを招くこと以外に策を持たない国家は、もはや資本の主人ではない。かつてのようにマネタリーベースを増やすことがGDPの成長とは相関しないのが現実である。

 また、巨大な財政赤字を抱える国の国債の信用が、多国籍企業の信用に劣るケースも普通に散見されるのが現実である。国際的銀行規制は、銀行の国債保有比率を引き下げるという国家の権威の一層の低下容認に向かっている。また、ビットコインの出現は、国家の最後の専権事項である貨幣発行さえも脅かされる可能性を示唆している。このように資本に見放されつつある国家に、どれほどの力が残るのかは疑問である。

●意味をなさなくなる企業の規模……重荷となる大規模組織

 そして、冷戦の終了によって資本と生産財の自由な移動がグローバルに一気に可能となり、国家に代わる効果的・効率的な資本再生産の乗り物としての重要性を急速に増してきたのが、国に代わって生産の手段を支配してきた企業である。しかし、2000年代のハイパーグローバリゼーションが、所有と利用を分離し、生産活動を行う上でオープンかつ低コストで活用できるプラットフォームを急速に充実かつ進歩させつつある中で、これまで意味を持っていた企業の規模(生産手段の規模が大きいことが効率のよい資本の再生産を意味した)が意味をなさなくなりつつある。逆に、ただの大きな組織を持つ官僚化した企業は、資本の再生産効率の悪いものとなりつつある。

●さらに、資本からみて無意味化しつつある企業

 冒頭のBeyond boundary、Acceleration、Leverageの3つのパラダイムシフトをもたらす、急速にデジタル技術革新と結合・融合する現在のグローバル化の下にあっては、競争力を向上させるという観点において、効率と同時に効果が重要な要素となっていることは明らかであろう。価値の源泉は個人の知識(アイデア)にあり、価値の具現化に組織規模が意味をなさないどころか障害になりつつあることを考えると、資本から見れば、さらに進んで、企業は効果性の高い資本の再生産の乗り物でもなくなりつつあるかもしれない。

 ドナルド・サル教授が指摘するように、大きな企業組織は、「積極的惰性(Active inertia)」【註2】が強く、環境変化に適応しようとしないので、変化の頻度、程度、速度のすべてが高まる不確実性の高い経営環境の中で、効果的・効率的な資本再生産の乗り物ではなくなりつつある可能性がある。それを理解している企業は、生き残るためにグローバル化を志向し、創出価値の強化(資本再生産の効果性の強化)と組織効率の向上を一層強く志向することとなる。その中では、日本の企業であることをやめる企業も出てくる可能性もある。企業は、企業間の競争という短視眼的な視野ではなく、これまでの企業組織という存在そのものが、資本からみて無意味化しつつあるという大きな流れを認識する必要がある。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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