創業者・松田聖子と、事業領域拡大させる娘・沙也加　巧妙な事業承継＆成長戦略

　世界の音楽市場は3大市場とその他の小さい市場に分類できる。音楽市場の規模は世界全体でおよそ1兆5000億円。米国で5000億円、欧州全体で5500億円、そして日本が3000億円。残りの1500億円を世界の多くの国で分け合っている。国単体で考えれば、日本は米国に次ぐ世界第2位の市場である。

　しかし、世界の中で日本だけが、音楽市場が急激に縮小している。12年の国内市場規模は3600億円だったが、13年には3000億円。この縮小傾向には歯止めがかけられない状況だ。将来どんどん縮小する市場にとどまり続けるより、成長市場を目指す方向性は間違っていない。神田さんはミュージカルにも事業領域を拡大している。米国のミュージカル市場は世界一の市場規模で、もちろん競争は厳しいが、事業領域の拡大方向としては正しいと言える。

　事業を大きく拡大し成功させ、自らを超えた豊田喜一郎を見る佐吉の目や、福原信三を見る有信の目は、神田さんを見る松田さんと同じように潤んでいたかもしれない。父や母を超える息子、娘たちに共通しているのは、いずれも父や母の背中だけに頼らないことである。もちろん頼りにしながらも、それをテコにし、常に成長市場を見いだし、市場機会を模索することで大きなステップを手に入れているといえる。
（文＝牧田幸裕／信州大学学術研究院（社会科学系）准教授）