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複雑化する同族企業の「後継者問題」(1)

ナッツリターン事件が助長する論拠乏しき「同族経営性悪説」 「世襲はダメ」の一般化は無謀

文=長田貴仁/岡山商科大学教授、神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
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 立志伝中の大物経営者の半生などを見てみると、家が破産し小学校も卒業せず大阪へ丁稚奉公に出て、苦労し松下電器製作所(現パナソニック)を起こした松下幸之助のように、育ちがハングリーであったから、どのような苦労にも耐えて成功したというケースが少なくない。確かに、日本が貧しかった時代に育った経営者にはそういう人が多かった。さらに時代を遡れば、明治維新とは下級武士たちによる革命ともいえる。豊臣秀吉は貧しい農民から身を起こし、天下をとったからこそ、戦国時代に「下剋上」という言葉が生まれた。確かに、ハングリーであることが大事をやり遂げる上で大きな突進力になったといえよう。

●優れた経営者に共通する「欲」

 では、金持ちであると経営者になれないのだろうか。そんなことはない。盛田は愛知県常滑に江戸時代(寛文5年=1665年)から続く造り酒屋の15代当主として生まれた。何不自由なく暮らし、小学校時代から番頭たちと一緒に、今でいうところの役員会議に出席していた。奇しくも、セコムの創業者である飯田亮の実家も同じく酒を扱う老舗の酒問屋(東京日本橋)である。飯田は5人男兄弟の末っ子だが、跡取りの長男をはじめ兄たちは全員が経営者になっている。父の口癖は「人に雇われる男だけにはなるな」だった。飯田兄弟は皆、その教えを忠実に守ったことになる。

 これらの例だけでなく、多くの経営者を類型化してみると、貧しいか豊かに育ったかは経営者の条件を決定づける要因ではないことがわかる。付け加えるとすれば、大成した経営者には、ただならぬ貧乏人、ただならぬ金持ちの姿が垣間見られる。何がただならないのか。それは、ビジネスや経営に対する執着心の強さである。言い換えれば、業を企てる欲、すなわち「企業欲」だろうか。

 筆者が飯田に「どのような人材が欲しいか」と尋ねたところ、次のように答えた。

「欲をむき出しにした野心的な人、そして、新しいビジョンをデザインできる人が本当に欲しい。でも、いい(新しい事業を創出できる)デザイナーが一向に見つからない。もっとも、デザインできる頭の良い人は自分でビジネスを起こしているかもしれない。おふくろには、『角を取りなさい』と散々叱られた。でも『角が取れたら、人間おしまいだよ』と口答えしたことがある。角がある人間がいいの。ずっと角を張りながらがんばっていると、少しずつ削られる。そこで削られまいとして、また一生懸命がんばる。そこにエネルギーが生まれる」

 経営史に名を残すような優れた経営者は、良い意味で欲を持ち続けた。これが大切なのだ。欲というと、いかにも脂ぎった守銭奴のようなイメージを受けるが、単にそれだけでなない。企業を成り立たせるには、情熱や使命感のような企業精神に加えて、利益にこだわる営利精神だけでなく、事業を通して社会に貢献する市民精神が求められる。これらを総体とするものを経営者の欲と理解したほうがよさそうだ。

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