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JMR生活総合研究所「消費と会社の戦略を読む」

自動車メーカーが脇役になる日 トヨタvs欧米勢の覇権争い勃発、脱ガソリン車時代幕開け

文=松田久一/JMR生活総合研究所代表
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自動車メーカーが脇役になる日 トヨタvs欧米勢の覇権争い勃発、脱ガソリン車時代幕開けの画像1トヨタ自動車「ミライ」

 日本を支える基幹産業である自動車が、変革の時を迎えている。T型フォードが1908年に発売されて以来、100年以上主流となっているガソリン車の次にはどんな自動車がくるのか。トヨタ自動車の特許無償公開で注目を集める燃料電池車(FCV)か、欧米企業が相次いで参入する電気自動車(EV)か。米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」では、独メルセデス・ベンツが単なる移動手段としての自動車の概念を覆す自動運転車を披露し、会場の話題をさらった。

 本稿ではトヨタの特許無償公開の狙い、そして今後の自動車業界の行方を探る。

自動車メーカーが脇役になる日 トヨタvs欧米勢の覇権争い勃発、脱ガソリン車時代幕開けの画像2「JMR生活総合研究所 HP」

 1月5日、トヨタ自動車は自社で所有する約5700件のFCV関連の特許すべてを無償で公開すると発表した。FCVとは、水素と空気中にある酸素を化学反応させて電気をつくり自動車を動かすため、二酸化炭素(CO2)を排出しない車だ。そんな究極のエコカーだが、同社1社の企業努力では普及に莫大な時間と費用がかかると判断し、特許の無償公開で他社に参入してもらうことで、普及スピードのアップを狙っている。

 そもそも企業は、将来を見据えて生き残るために戦略を練る必要がある。トヨタは、次に来るのはFCVだと判断した。そして一見、太っ腹な行動に思える特許の無償公開を決めた。しかし、真の意図はどこにあるのか。

●ぶつかる日本勢と欧米勢の思惑

自動車メーカーが脇役になる日 トヨタvs欧米勢の覇権争い勃発、脱ガソリン車時代幕開けの画像3『比較ケースから学ぶ戦略経営』(KADOKAWA・中経出版/松田久一)

 世界最大手の一角を占め、日本を代表する企業であるトヨタ自動車は、本田技研工業(ホンダ)と合わせてハイブリッド車(HV)では世界シェアの過半数以上を占めているといわれている。そこで、欧米メーカーは競争の場をHVではなくEV市場にしようともくろみ、相次いで開発に乗り出している。

 一般的にガソリン車では2-3万点の部品が必要だが、EVではその4割程度が不要になるという。そのため、自動車メーカーだけでなく、家電メーカーなどの異業種からもEVに参入する可能性が高いとされている。一方で、FCVはガソリン車ほどではないが、EVよりも部品数は多い。多くの雇用を抱える日本の自動車産業にとって、今の産業構造を生かすためにもFCVのほうが都合がよい。
 
 特許無償公開に先立ち、トヨタは世界初となる量産向けセダン型FCV「MIRAI(ミライ)」を発売すると発表した。グループで年間1000万台を生産するトヨタにとって、2015年末までに約700台を生産するというミライの生産台数は決して多くはない。しかし、特許の公開によってマーケットを広げることで、次の決戦の場をEVではなく、自社の技術が先行するFCVの市場に持って行こうというもくろみが見える。無償公開はいわば、その呼び水となる。もちろん、特許を無償公開しても自社の技術が優れており、他社よりも優位に立てるという自負もあっての戦略だ。

 一方で、FCV普及には障壁も少なくない。例えば、ガソリン車にとってのガソリンスタンドに当たる水素ステーションだ。現状では1カ所設置するのに数億円の費用が必要になり、東京都は25年までに官民連携で80カ所の水素スタンドを設置する目標を掲げているが、ガソリンスタンドに比べれば少ない。FCVへの参入メーカーが増えれば水素ステーションの数も増えていくはずだが、EVベンチャー、テスラ・モーターズの最高経営責任者イーロン・マスク氏は、引火しやすい水素の危険性や貯蔵の難しさを指摘して、水素を使うFCVを「ばかげている」と非難している。

松田久一

松田久一

JMR生活総合研究所代表

JMR生活総合研究所

 生活者の総合研究に基づいて、新しい事実を発見し、その事実から戦略を組み立て、経験を生かしたコンサルティングを通じて、クライアントの問題解決を行う。1991年に設立してから今日までの約20年の間に、年間平均250、延べ5000のテーマに取り組んできた実績を持つ。主たる領域は、食品、飲料・酒、化粧品・日用雑貨、輸送機器、家電・情報通信、流通など生活者と接点を持つ業界。日本を代表する企業のマーケティング課題のソリューション(解決)に取り組んでいる。

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