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競馬界の名門・藤澤厩舎が復活した横山典弘騎手との“断絶事件”の真相

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JRA公式HPより

09年に56勝をあげて全国リーディングに輝いたが、それ以後は49勝、44勝、50勝、43勝とやや伸び悩んでいた関東のナンバーワン厩舎・藤澤和雄厩舎が昨年に見事な復活を遂げた。

 14年はリーディング奪取にこだわり、矢作芳人厩舎や角居勝彦厩舎ら関西の名門厩舎と激しいデットヒートを繰り広げ、惜しくも53勝(全国3位)とリーディング奪取こそならなかったが、関東の厩舎で唯一のトップ10入り。勝率は0.170で最高勝率部門の1位を獲得、連対率も0.317と3割を超えて、秋の「天皇賞」をスピルバーグで制し、8年ぶりにGⅠも制覇した。

 なぜ藤澤は復活したのか? 

 その理由を明かすうえで、避けて通れない大事件がある。長らく厩舎の主戦を務めてきた横山典弘騎手との“断絶”だ。新事実も含め、藤澤和雄調教師の心境に大きな変化をもたらしたこの事件を改めて掘り下げてみたい。

 キッカケは13年の「日本ダービー」を巡ってのコディーノの降板劇だった。

 デビューからコンビを組んでいたコディーノと横山騎手だったが、「日本ダービー」でその鞍上は横山騎手からウィリアムズへとスイッチしていた。事態が動いたのは、ダービーの約2週間前、「京王杯スプリングカップ」が行われる週の水曜日だった。

 各専門紙は「想定」を作成中。

「想定」とは、週末に出走を予定する馬が実際にどのレースに登録するのかをトラックマンが取材し、暫定的な出馬表のようなものを作成するというもの。いつもは藤澤厩舎所属馬の騎乗予定騎手の欄には主戦の「横山典」という名前が必ず見受けられたが、一切なくなっていたのだ。

 その後、全休日明けの火曜日から横山騎手は藤澤厩舎の調教にもまたがっていないことが明らかに。週末の「京王杯スプリングカップ」に横山騎乗で出走予定だったレッドスパーダが、騎乗者未定になり、前週の「NHKマイルC」で横山騎手が騎乗した藤澤所属馬のフラムドグロワールがダービーで北村宏への乗り代わりが発表。藤沢厩舎から「横山典」の名前がすべて消える事態となった。

 コディーノのウィリアムズ騎手への乗り替わり発表をキッカケに、藤澤調教師と横山騎手は“断絶”したワケだが、その理由としてこれまで伝えられていたのは、横山騎手が自身の乗り替わりを藤澤調教師本人から直接聞かされないまま、マスコミから聞かされたからというものだった。

 実際にこういった声もある。

「当時、ノリ(=横山典弘)はマスコミに『そうなの? 知らない』とそっけなく答えていたが、『NHKマイルC』後のイベントでは『ダービーはコディーノで頑張ります!」と宣言していただけに、メンツは丸潰れ。内心はらわたが煮えくり返る思いだったに違いない」(美浦在籍のトラックマン)

 ただ、乗り替わりを調教師から直線本人に伝えられないことはままある。現在の競馬界においては“調教師から騎手に対する騎乗依頼を仲介する者”としてエージェント(=騎乗依頼仲介者)が存在し、騎手と調教師の無用なトラブルを避けるため、騎乗依頼のやり取りをエージェントに一任する騎手も多い。

 しかし、横山騎手にもエージェントはついてはいるものの、コディーノという素晴らしい能力を持つ馬は藤澤調教師と横山騎手にとっては特別な存在であり、トレセンでは常に“二人三脚”で直接話し合いながら情報を共有して育ててきており、エージェントは介していなかった。コディーノに対する2人の期待はとても大きいもので、エージェントを介さないだけでなく、めったにラッパを吹かないことで知られる藤澤調教師と横山騎手も珍しく、「とんでもない大物」や「クラシックを狙える」などと強気発言をしていたほど。

 オフレコでは「“3冠”も……」とまで口にしていたといい、競馬記者たちも「あんなにうれしそうに話す2人は見たことがない」と驚いていたくらいだ。

 の期待どおり、コディーノはデビューから3戦3勝(うちGⅢを2勝)と圧倒的なパフォーマンスを見せたが、2歳のGⅠレース「朝日杯フューチュリティステークス」の出走で歯車を狂わせる。

 新馬戦から3戦すべて1800mを使ってきたコディーノ。そのレース選択は同馬の前向きな気性を考えての選択であり、2400mで争われる「日本ダービー」を逆算してのことだった。

 ただ、オーナーサイドのサンデーレーシング、ノーザンファームの強い希望で、4戦目は「朝日杯」というマイルGⅠに歩を進めることとなった。その背景には、オーナーサイドによる将来的な種牡馬としての価値を高めるという選択もあったという。

「マイルを勝つスピードを証明することは、現代のスピード優先の競馬界では重要なことですからね」(前出の美浦在住のトラックマン)

 とはいえ、「日本ダービー」を目標にしているのであれば、1800mから2000mなど距離を伸ばしていくのが定石で、当初はマイルを使う選択肢は藤澤調教師の頭にはなかった。結局、オーナーサイドに押し切られる形で「朝日杯」出走が決定したコディーノだったが、これが藤澤調教師と横山騎手との蜜月関係にビビを入れることになる。ハイペースで流れたマイルの激流に飲み込まれたコディーノは、前向きすぎる性格が災いし、引っ掛かりグセが顕在化。その後の「弥生賞」、「皐月賞」では引っ掛かって連続3着に終わった。

「ノリはうまく馬をなだめながらほぼ完璧に乗ったと思いますが、オーナーサイドは騎乗に納得がいかず、ウィリアムズへの乗り替わりを藤澤師に進言したそうです」

 コディーノに未練のある横山騎手は「日本ダービー」への騎乗を藤澤調教師に直訴。藤澤調教師もオーナーサイドに懇願したというが、答えはNOだった。

「ヤケになったノリはサンデーレーシング、ノーザンファームの言いなりになっている調教師の姿に日頃から不満を募らせていたこともあって、思わず『リーディングトレーナーって言ってもも大したことねえな』と捨てゼリフを吐いてしまった。これを耳にした藤澤師が激怒し、断絶状態となってしまったんです」(美浦在住のトラックマン)

 こうして両者は事実上の断絶状態となり、厩舎の勝ち星を支えてきた横山騎手が藤澤厩舎の馬に乗る姿は見られなくなったわけだが、別の美浦トラックマンは「乗り替わり事件前から“伏線”があった」と打ち明ける。

「藤澤厩舎の番頭格だった優秀な助手があるトラブルが原因で、他の厩舎に移籍したんです。以前から藤澤先生は数名の厩務員とパワハラを理由に労務関係で裁判沙汰になっていて、美浦を巻き込んだ大騒動になっていた。美浦は確かに労働組合が強すぎる面はあるんですが、“馬優先主義”の藤澤先生は厩務員の労働環境改善の主張をまったく聞き入れようとしなかった。そんな姿に横山さんも部下に冷たいと感じていたと思います」

 そうした姿を見続けてきた横山騎手にしてみれば、今回の自分に対する仕打ちで堪忍袋の尾が切れたという側面もあったのかもしれない。

 だが、興味深いことに藤澤厩舎の復活の裏に、名手・横山騎手との“断絶”やかつてのスタッフの離脱というトラブルが関わっているというから競馬は面白い。

「昨年1月に、藤澤先生が『今年はリーディングにこだわる』とマスコミに宣言したのは、横山さんに対して『見返してやる!』という一種の意地ですよ。好成績をおさめた昨年は厩舎スタッフに給与面で大盤振る舞いをしたともっぱらですが、それも『ウチの厩舎にいた方が良かっただろ?』といういわばメッセージ。元スタッフの中には『藤澤のテキの本気はスゴい』とすでに昨秋くらいに白旗を上げていた人もいるというから、リーディング奪取にこだわった昨年は成功といえるでしょうね」(同トラックマン)

 秋の「天皇賞」をスピルバーグで制し、約年ぶりのGⅠ制覇を成し遂げて名門復活の雰囲気が漂う藤澤厩舎だが、その原動力となっているのが2人の騎手の存在だという。

「まずはノリに替わる“主戦”として、昨年は厩舎の勝ち星の半分近い25勝をあげた北村宏騎手です。これまでは横山騎手に続く、2番手騎手という扱いでしたが、主戦となった今、本人も藤澤先生の期待に応えようとかなり気合が入っています。3割8分という脅威の連対率がその表れです。今年も藤澤&北村コンビの馬は要注意ですよ」(同トラックマン)

 そして、もう1人が関西所属の浜中俊騎手だ。

「浜中騎手が関西所属ということもあり、これまで藤澤厩舎とはそれほど太いパイプはありませんでしたが、去年の12月に初めて騎乗を依頼したホーカーテンペストを見事に勝利へ導いた浜中騎手の手腕を藤澤先生も高く評価しているそうです。今後は藤澤先生と浜中騎手とのタッグは増えていくと思います」(同トラックマン)

 そのうえで、北村宏騎手の買いどころをこう明かす。

「北村さんは元々マジメな性格のうえ、過言による藤澤先生と横山さんとの断絶を間近で目撃してきただけに、藤澤先生の馬に対してはかなり気を使って発言しています。変な発言をしてトラブルになることを極度に恐れて、藤澤厩舎の馬に関してはかなり慎重にジャッジしています。そんな北村さんが少しでも強気と思える発言をしたら、相当な自信がある証。馬券で勝負する価値はありますよ」(同トラックマン)

 今年も復活した藤澤厩舎からは目が離せない。

(サイゾーpremium編集部)