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町田徹「見たくない日本的現実」

TPP、合意目前か 日本はコメ、米国は自動車で大幅譲歩が焦点 合意への5つの鍵を検証

文=町田徹/経済ジャーナリスト
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 この2品目が大きく進展した結果、農業分野で日本の守るべき問題として最後まで残ったのは、ただひとつ。コメの問題だけとなっているという。コメについては、各国に割り当てる低関税の輸入枠(77万トン)に加えて、5万トンの米国産輸入特別枠設置を検討している模様だ。これがTPP交渉を合意に導くための第一の鍵で、安倍首相が政治決断を迫られる問題となっている。

●最後の焦点は日本車と農産物

 日本側の決断と表裏一体の関係になっているのが、オバマ大統領と米議会が決断を求められている2番目と3番目の鍵だ。このうち2番目の鍵は、農業を聖域と主張していた日本への対抗上、米国が聖域としていた自動車の関税を引き下げられるかどうかだ。現在、米国は日本車(完成車)に2.5%の関税をかけているほか、部品にはより高率の関税をかけている。そして、米国は日本車の関税撤廃を、日本が関税撤廃・引き下げに最も時間をかける農産品に合わせて行う腹案を持っているとされている。米国内の根強い反発を抑えて、こうした方針をオバマ大統領が決定できるかどうかが問われている。

 さらに、3番目の鍵が、TPPを早期にまとめるため米大統領に強力な通商交渉権限を委任する大統領貿易促進権限(TPA)法案をめぐる米議会の動きだ。昨年の中間選挙の大勝利で上下両院を支配することになった共和党は、自由貿易の促進が伝統的な党の主張だけに、もともと比較的柔軟とされている。加えて、強硬な反対派とみられていた前述のNPPCが日本の対応を評価して態度を一変、「法案成立に向けて、業界を挙げ、全力で議会に協力していく」と語り、ワシントンでは一気に成立期待が高まっていると聞く。

 4番目と5番目として残る2つの鍵は、日米両国とマレーシア、ベトナムなどの新興国の間で大きな溝となっている知的財産権の保護と国有企業の扱いだ。特に知財では、著作権の保護期間を作者の死後70年間とする方向で調整が始まっているものの、医薬品開発データの保護期間では日米両国と新興国のにらみ合いが続いているとみられる。また、国有企業改革では、改革の例外としてよい企業のリスト作成をめぐり、マレーシアやベトナムの抵抗が根強く、作業が大きく遅れている模様だ。気掛かりなのは、米国側の交渉団が、知財や国営企業をめぐる争点で、自国企業の利益ばかりを代弁していると報じられている点だろう。

●TPPの意義とは

 ここで想起したいのが、過去の日米経済摩擦をめぐる交渉では、ほとんどの場合、解決策を日本側が策定して、米国側の理解を得るかたちで決着させるケースが多かったことだ。今回のような局面では、日本が当事者である新興国に代わって新興国がとるべき措置の具体策を立案し、それらを米国と新興国の双方に提案して合意に導くような役割を果たす必要があるのかもしれない。

 TPPは交渉参加12カ国の自由貿易を進展させるものだが、目的はそれにとどまらない。アジア太平洋諸国の自由貿易をめぐるルールの国際標準をつくることが重要なのだ。将来、巨大市場を持つ中国をTPPに取り込んで、悪名高い外資規制など中国独自の慣習を改めさせたり、中国が主導して自国の常識を押し付けようとしている経済連携協定のあり方に影響を及ぼすことができるからである。WTO(世界貿易機関)加盟交渉の際に、中国の取り込みを焦るあまり、随所に中国優遇策を残してしまったことへの日米両国の反省も生かさなければならないのだ。もちろん、ブロック経済に代表される保護主義の台頭が太平洋戦争につながったという歴史的教訓も忘れてはならない。各地できな臭さを増す安全保障の担保として、TPPのような自由貿易の維持・拡大の試みは重要だ。

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

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