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今枝昌宏「ビジネスモデル考」

なぜ同じメーカーのカメラを買い続ける?競合他社を排除する「製品ピラミッド」より考察

文=今枝昌宏/エミネンスLLC代表パートナー
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●製品ピラミッドの製品間には共通性が必要

 ところで、製品ピラミッドというのは、自社が生産するものを低級品から高級品まで取り揃えるということであるが、製品ピラミッドが全体として同じ企業から供給されることによって優位性を持つためには、ピラミッド内の各製品は、単純な品揃えだけではなく、製品間になんらかの共通性があることが必要である。単純な品揃えのみであれば、流通業者であっても比較的簡単に達成することが可能だからである。あくまで製品ピラミッドは、ピラミッド全体として機能することが必要なのだ。

 まず、調達や生産、サプライチェーン面をできるかぎり共通にすべきであり、部品の共通化や生産、輸送、流通チャネルとの対応をできるだけ共通にすることによって、規模の経済を追求すべきである。これによって、単独グレードのみを生産する企業に対し、コスト的に優位に立つことができ、流通支配力も高められる。

 さらに、性能や運用方法などの提供価値面においても、製品間になんらかの共通性を持たせることが望ましい。ユーザビリティの統一により顧客が製品間を移動しやすくしたり、複数のグレードで付帯製品を共通化して製品間を移動しやすくすることができるのである。例えば、一度入門機のカメラを買ってしまうと、その使い勝手や交換レンズなど付帯品の流用性から同じメーカーのカメラを使い続けることになってしまうというような例が挙げられる。

 ただし、あくまでピラミッドはグレードが違う製品群なのであるから、これを台無しにしてしまうような同質化は避けるべきである。せっかくレクサスを買ったのに、いたるところにトヨタのロゴマークが見えてしまっては興ざめしてしまう。共通化は、あくまでグレード区分の趣旨を侵さない範囲で行うべきである。

●高級品からの参入もブロック

 製品ピラミッドが奥深いのは、スライウォツキーが挙げる基本パターン、つまり低級品からの参入を防止するためだけの道具ではなく、高級品からの参入をも防止するものだということだ。市場参入のパターンの1つとして、最高級セグメントから入るというケースもあり、一般にスキミングと呼ばれている。製品ピラミッドは、このスキミングにも有効な防御方法なのである。

 スキミングは、規模を持てない新規参入者にはうってつけの参入方法となることがある。例えば、KVHテレコムはデータ通信市場に最高級のルータやスイッチを使って、1ミリ秒でも早い信号伝達を必要とする証券会社などに顧客ターゲットを絞り、市場参入している。このように最高級のセグメントをまず狙うことによって、圧倒的な規模を有するNTTを前にしても、小規模かつ有効に参入することが可能になるのである。この場合、NTTとしては、KVHと同等のサービスをできるだけ既存網を使ってコストダウンしながら構築し、既存サービスの上側に新商品を乗せるかたちでピラミッドを形成することにより、KVHの参入に有効に対抗できるはずである。

今枝昌宏

今枝昌宏

エミネンスLLC代表パートナー。京都大学大学院法学研究科、エモリー大学ビジネススクールMBA課程卒業。ジャパンエナジー(現JX)、PwCなどのコンサルティングファーム、買収ファンドであるRHJI(旧リップルウッド)などでの勤務経験を持つ。著書に『ビジネスモデルの教科書』『サービスの経営学』など、訳書に『戦略立案ハンドブック』(いずれも東洋経済新報社)がある。ご連絡は、imaeda@eminent-partners.com まで。

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