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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

Jリーグ、サラリーマン指導者が名GMに 予算、チーム事情…現実に向き合い的確な運営

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

サッカークラブの枠を超え、地域創生の起爆剤に

 そんな佐久間氏の手法を批判する勢力もある。大宮アルディージャ時代には、試合後にサポーターが居残って抗議を続け、観客席に「佐久間辞めろ」と横断幕が掲げられたこともあった。そこでVF甲府では、より一層、交流に力を入れている。例えば、チームのサポーター組織の代表とは2カ月に1度話し合いを行い、クラブの最新情報を伝えながら本音の意見を交換している。もちろん、選手との対話も重視する。

「個人面談では、本人のパフォーマンスを基に期待する役割や要望を伝え、クラブの財政状況など情報も開示します。不満や要望にも耳を傾け、チーム全体の改善につながる話はできるだけ希望に沿うよう動きます」(佐久間氏)

 現在の佐久間氏は、VF甲府のブランドイメージ向上の活動にも携わる。これも同氏の発案が多く、「地域創生の起爆剤として、サッカークラブの枠を超えた存在になりたい」との思いからだ。

 例えば、「東南アジア市場の開拓」もその1つ。1月28日には建設機械の製造・販売を行う地元企業の日建とパートナーシップを結び、東南アジア諸国でサッカー教室などの国際交流を開くことを発表した。サッカー教室は国内で実施する方式の応用版だ。佐久間氏は「これが定着すればミクロの視点では引退後の選手の雇用も期待でき、マクロの視点では、アセアン諸国におけるオール山梨の取り組みにつながります」と語る。

GMに求められる資質

 最後に、話をチーム強化におけるGMの役割に戻すと、同氏に教えてもらった「GMに求められる5本柱」がユニークだ。JリーグのGM講座で英国リバプール大学を訪れた際、最初の授業でローガン・テイラー教授が語った言葉だそうだ。

(1)GMは「教会で働いている」と考えなさい
(2)クラブチームが「何を売り物にしているか」を考えなさい
(3)プロサッカークラブは「関係者に苦悩を提供している」と理解しなさい
(4)サポーターが「あなたを嫌っている」と理解しなさい
(5)それでも「サポーターと結婚しなさい」

 それぞれ補足すると、(1)は社会奉仕の精神で、今の仕事はあなたが偉いのではなく、神から与えられているもの。(2)と(3)は観客に喜びと同時に失望感や悲しみといった苦悩を売っている。(4)は熱心なサポーターほど「自分がやったほうが成績はよくなる」と思っている。(5)はそういう人たちをすべて許して、その人たちに寄り添いなさい――というものだ。

 佐久間氏の意識の片隅にはこれがあり、物事を進める場合は「未来志向」で考えるそうだ。未来志向とはロマン追求にもつながる。同氏は、吉田松陰の「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。ゆえに、夢なき者に成功なし」という言葉が信条だという。

 1月10日付当サイト記事『瀕死のドラゴンズ、ファンもあきれる…不可解な契約更改、デタラメな球団経営&人事』は、プロ野球におけるGMの役割を読者が考える機会となることを願って寄稿した。今回のJリーグのGMは、その続編的位置づけである。地域財産であるプロスポーツの健全な発展のために、球団やクラブのGMが「関係者に苦悩を提供する常識人」であってほしいと願っている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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