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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」(3月15日)

世界中のLCCがマネする航空会社の秘密 勝ち組ピーチ、マネの成功を導いた「喩える力」

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ピーチ・アビエーションの航空機(「Wikipedia」より/Tokyoship)
 2012年は、日本の格安航空元年だったといわれている。しかし、この年に新規参入した格安航空会社(LCC)3社のうち好調といえるのは、14年3月期には単年黒字を達成したピーチ・アビエーションだけだ。エアアジア・ジャパンは出資元の全日本空輸とマレーシアのエアアジアが合併を解消してバニラ・エアになり、ジェットスター・ジャパンは2年目も赤字で低空飛行のままだ。

 明暗が分かれてはいるが、世界のLCCは米国のサウスウエスト航空のビジネスモデルを模倣することでつくられたといえる。そんなサウスウエスト航空だが、実は自身も忠実に模倣した航空会社があるのだ。

 1949~88年にカリフォルニア州内で運行していたパシフィック・サウスウエスト・エアライン(PSA)で、米国最初のLCCだった。同社は「世界で一番親しみやすいエアライン」と自称しユーモアあふれる応対で知られ、アロハシャツを着た創業者は、乗務員やパイロットに客と冗談を言い合うことを推奨した。乗務員のユニフォームは、60年代には鮮やかな色彩のミニスカートが有名になり、70年代初めにはホットパンツだった。

 サウスウエスト航空の創業者のハーブ・ケラハーは、PSAを徹底的に研究し、自由で親しみやすい従業員といった企業文化から、制服、その他の要素まで、ほぼすべてを採用した。当時のサウスウエスト航空の社長が「サウスウエスト航空はPSAを完璧にコピーした」と証言しているほどだ。

 サウスウエスト航空は、航空産業におけるイノベーションの見本として取り上げられる。それまで市場に存在しなかったまったく新しいビジネスモデルを創造したと考えられがちだが、実際には模倣から生まれたものだ。だが、モデルにした会社よりも成功し、航空市場を変革(破壊)するまでに成長した。それは、サウスウエスト航空がビジネスモデルの基本4要素(同一種類の航空機使用、2つの空港をノンストップで結ぶ、限定的な顧客サービス、マルチタスクをこなす従業員)を徹底したことと、この4要素を結びつける第5の要素、すなわちロイヤルティの高い誇りを持った生産性の高い従業員を創造・維持するのに成功したからだろう。

 サウスウエスト航空は顧客第一ではなく従業員第一の企業文化で知られ、従業員の報酬は米航空業界で一番高い。だが、その分、生産性も高い。例えば、パイロットは業界平均と比較して、一日当たり1時間多く飛んでいる。生産性が高いこともあって、サウスウエスト航空の1座席1キロメートル当たりのコストは6.4セントで、ユナイテッド航空やデルタ航空の7.7セントより17%低くなっている。

ピーチ・井上CEOの発信力

 日本のLCCで模倣上手なのは、ピーチだろう。ピーチはLCCのビジネスモデル4要素を表面的にマネするのではなく、マクロの観点からマネしているようにみえる。例えば、井上慎一CEOは、「ピーチは航空会社ながら『空飛ぶ電車』のサービスモデルを志向している。お客様が遅れても待たずに出発する。チケットはお客様が自分で手配、駅の改札を通るように自らチェックインしていただく。新幹線のワゴンサービスのように、機内の飲食物は有料で提供している」と語っている。

 拙著『合理的なのに愚かな戦略』(日本実業出版社)にも詳しく書いたが、会社の方向性をメタファー(隠喩)で語れる経営者は、マクロの観点から全体を見ている。各要素がどう絡み合って全体をつくっているかも理解している。そして、メタファーで語れる経営者は総じてコミュニケーション力が高い。社員や消費者への発信力や伝達力が高いということだ。「空飛ぶ電車」を目指していると言われれば、どのサービスが必須のもので、どのサービスは排除あるいは簡素化してよいのかが、社員も直感的に理解できる。同じく、どういったサービスを期待してよいのか消費者も直感的に理解できる。遅れてきた客を電車が待つはずがない。電車の乗務員は頼めばある程度親切ではあるが、乗務員のほうから「何々しましょうか」と客に寄ってきてくれるほどではない。