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片山修「ずたぶくろ経営論」

なぜトヨタは世界初FCV「ミライ」を市販できたのか 不可能を可能にした20年の格闘

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家
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 02年には、世界に先駆けて日米で限定リース販売を開始したが、量産化のメドはまったく見えなかった。05年に国内で初めて型式を取得し、08年には航続距離、氷点下始動性を向上させた「FCHV‐adv」約100台を日米で走らせた。13年の第43回東京モーターショーでは、ほぼ最終の外形デザインに近い状態が披露された。

 FCVは、水素から電気を発生させる燃料電池スタック、水素を蓄えておく高圧水素タンク、電気を蓄えておくリチウムイオンバッテリー、電気を動力に変えて車を動かす駆動モーター、電気の流れを制御するパワーコントロールユニットなどで構成されている。

 FCVの進化の柱となるのが、燃料電池スタックだ。固体高分子膜(電解質膜)を2つの電極層(水素極/酸素極)と拡散層で挟み、膜電極接合体(MEA)を形成。これをセパレーターで挟んだ状態をセルといい、一組の発電装置が形成されている。このセルを何百もの層に重ねて、積層体にしたものが、燃料電池スタックだ。ミライの燃料電池スタックには、世界初の「3Dファインメッシュ流路」が採用されている。空気の拡散性と排水性を向上させ、セル面内の均一な発電を可能にして発電効率を高めた。最高出力は114キロワットである。

「ミライの燃料電池スタックには、厚さ1.34ミリのセルが370枚並んでいるのですが、それぞれが非常に細かく、反応面積が広くなるような流路を持っています」(田中氏)

 水素が水素極に送り込まれると、電極(白金)の触媒作用で水素イオンに変わり、電子を放出する。水素イオンは電解質膜を通り、酸素極に移動するが、電子は通れないので外を経由して酸素極に移動する。これが発電の仕組みだ。ミライを普及価格に下げるには、白金の使用量の低減が課題の1つだったが、その使用量を約3分の1に減らすことに成功した。

「白金を減らすに当たっては、コバルトと合わせて、少ない白金であっても触媒として大きな性能が出せるような技術を開発しました」(同)

 また、タンクの軽量化も課題となった。

「タンクは、軽くても強度を出すためにカーボンが巻かれているのですが、その巻き方に工夫があります。タンクは外注しているメーカーもあるのですが、コア技術は自分たちでつくってみて、手の内化してはじめて技術進化やコスト低減が進められるため、内部で開発しなければいけないという考えから、内製しています」(同)

 70MPaの高圧水素タンクは、水素を封じ込めるプラスチックライナー、耐圧強度を確保する炭素繊維強化プラスチック層、タンクの表面を保護するガラス繊維強化プラスチック層の3層構造だ。万が一の衝突時にも、FCスタックや高圧水素タンクを守れるように、例えば衝撃を感知してタンクのメーンバルブが閉まる機構を採用するなどの安全対策が施されている。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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