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ダーガー、シュヴァル……美術史の枠から外れた“アウトサイダー・アート”の魅力とは

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※画像:『アウトサイダー・アート入門』(椹木野衣/著、幻冬舎/刊)

 “アウトサイダー・アート”をご存知ですか? 正規の美術教育を受けない(=アウトサイダー)作家が、自己流に表現したアート作品のことです。「美術史」の枠のなかに留まらないアウトサイダー・アーティストたち。その秘密に迫る一冊が発売されました。

 『アウトサイダー・アート入門』(椹木野衣/著、幻冬舎/刊)は、書籍執筆、展覧会の企画、雑誌「美術手帖」での連載等を通じて日本の美術界を20年以上にわたって牽引し続ける作者が書き下ろした、アウトサイダー・アートの魅力にせまる一冊です。

 空想の戦争物語を40年間描き続けたヘンリー・ダーガー、33年間石を積み上げて庭に自分の理想宮を作り上げたフェルディナン・シュヴァル、33年間がらくたを組み合わせてタワーを完成させたサイモン・ロディア…。誰もが非常識で、社会の逸脱者であるにもかかわらず、作品は死後も世界中の人々からの注目を集めています。

■無名のアウトサイダー・アーティストたち

 アウトサイダー・アート、またはフランス語のアール・ブリュット(生の芸術)は、日本では特に、「子ども」や、「障害を持った人々」の作るアートとして紹介されることが多くあります。例えば、ダウン症などの障がいを持った子どもたちの作品が特集された展示を見たことがある人もいるかもしれません。または、精神を病んだ人が超人的な持久力で延々と作り続ける「トンデモ」美術として紹介されているテレビ番組を目にしたことがある人もいるでしょう。

 しかし、定義から言えば、通常の教育を受けた普通の大人であっても、正規の美術教育を受けず、独学で美術を学んだ人の作品であれば“アウトサイダー・アート”ということになります。

 椹木氏は、「“アウトサイダー・アート”は、“インサイダー・アート”の対極である」、と述べます。ここで言うインサイダーとは、美術を美術たらしめる力を持った、美術館関係者やアカデミックな研究者たちが作り出す世界です。パリのルーヴル美術館やロンドンのナショナル・ギャラリーに整然と並ぶ作品は、文化財として収集・展示されていますが、アウトサイダー・アートは、こうした美術の殿堂から締め出され、無名のまま放置されています。アウトサイダー・アートの担い手たちは、つねに社会的弱者の側に身を置き、なんらなかの形で世間からの誤解や差別、迫害を余儀なくされてきました。

■なぜ今“アウトサイダー・アート”なのか

 すでに述べたように、“アウトサイダー・アート”には、正規の美術から外れているという、負の痕跡が刻まれています。

 しかし、近年は、日本の文化庁の動きにあるように、アール・ブリュットを国家が進んで公認しようという流れが目立っています。”アウトサイダー・アート”という、「外道」「異端」というニュアンスを持つ語ではなく、“アール・ブリュット”という、「無垢」「生粋」というニュアンスを持つ語が好まれていることからも分かるように、そこからは負のニュアンスがどうしても抜け落ちてしまいます。アール・ブリュット、アウトサイダー・アートが文化における障がい者支援や児童学習、生涯教育といった、国家にとって都合の良い文化支援に偏ってしまうとしたら、その全体像はひどく歪められてしまう可能性があります。死刑囚や犯罪者の作品が、大いに可能性を宿しているにもかかわらず、以前よりさらに日の当たらないところに追いやられてしまうかもしれません。アウトサイダー・アートは、社会的弱者のみならず、時と場合によっては反社会的な存在にまで開かれていなければならない、と椹木氏は述べています。