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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

日本経済と乖離する日本企業 賃金抑制と製造業空洞化を招いた国の怠慢 農業保護の代償

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト

 法人税率引き下げ競争が激しいEUでは、法人税率引き下げと共に法人税収の名目GDPに対する比率が上昇する「法人税パラドックス」と呼ばれる現象がみられている。この成功の要因としては、法人税率引き下げと同時に課税ベースの拡大を行ったことや法人なりのインセンティブが働き会社数が増加したこと、さらには企業収益が増えて税収が増えたことなどが挙げられている。

 また、EU域内を個別にみても、実効税率がEU平均以下の国とEU平均以上の国の実質GDP成長率を比較すると、実効税率が平均より低い国の実質GDPの伸び率は、高い国より1%程度高くなっている。

 一方、日本企業はアジアの税制面での魅力に引き付けられるように海外展開を加速させてきた。例えば、タイでは地域統括会社の認定を受ければ法人税率30%を10%に軽減できる。また、スイスでも地域統括会社の法人税率21.17%について5年間5-10%の軽減税率が受けられる。さらに中国では、25%の法人税率が適格ハイテク企業の場合に15%に軽減されることになっている。

「日本企業の好調」ノットイコール「日本経済の好調」

 技術立国の日本は、これまで国内で研究開発し、その技術を製品輸出に活かすだけでなく、同時に海外企業から特許料やロイヤリティを受け取る収益モデルに転換してきた。一方、税制面の立ち遅れや規制強化により日本企業の活力が損なわれてきた。さらに、デフレが長引く中で、日本企業は含み資産経営から脱却すると同時に、利益拡大を優先するスタンスに転じ、人件費の抑制を続けてきた。こうした企業行動の変化も内需の抑制要因となってきた。

 背景には、安価な労働力を大量に供給する新興国企業との競争激化により、世界的に人件費の低下圧力がかかってきたことがある。このため、相対的に賃金水準の高い先進国企業は、海外に現地法人を設立するかたちで海外進出を行い、国内での雇用者所得が失われてきた。

 つまり、日本企業が好調であるからといって、日本経済まで好調であるとは限らなくなっており、日本経済と日本企業はもはや別物になりつつあるといえる。人口の減少と経済のグローバル化により、日本企業は経営のグローバル化を進め、さらに日本経済から乖離していく可能性が高い。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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