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「ココロに効く(かもしれない)本読みガイド」山本一郎・中川淳一郎・漆原直行

障害者を求め続ける24時間テレビが超高視聴率、を気持ち悪いと思うことが許されない社会

文=中川淳一郎/ネットニュース編集者、PRプランナー

障害者を求め続ける24時間テレビが超高視聴率、を気持ち悪いと思うことが許されない社会の画像1『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社/武田砂鉄著)
【今回取り上げる書籍】
『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社/武田砂鉄著)

 松岡修造による前向きなことばかりが書かれた日めくりカレンダーが85万部も売れたり、ラーメン屋の便所に相田みつをの言葉がかけられていたり、J-POPの歌詞を聞いて「元気をもらえた」と言う人がいたり、「障害者はいねぇがぁ!」「不幸な人はいねぇがぁ!」となまはげの如く出演者を求め続ける日本テレビの『24時間テレビ』が好評のうちに37回も続き、昨年は城島茂がマラソンでゴールした直後の視聴率が41.9%を記録するこの世界を気持ち悪いと思う自分がいる。

以下9項目のうち、6項目が当てはまればこの本はオススメ

 しかし、これを気持ち悪いと思うことが推奨されない世界に我々は生きている(24時間テレビについては、その制作陣に対して、である)。がんばっている人、前向きな人、素直に生きている人、感動している人に対して批判をすることはひとでなしによる行為なのだ。本書は、以下の項目に当てはまる人にはオススメの本である。

(1)松岡修造が公開するムダにアツい動画は好きだし、本人のことも嫌いではないが、松岡修造のカレンダーを買う人とは仲良くなれないと思う人。

(2)村上春樹の作品はまぁまぁ好きだが、村上春樹のことはあまり好きでなく、村上春樹を信奉し、新作発売前に書店に並び、購入後にテレビカメラの前で大騒ぎする人が嫌いな人。

(3)ハロウィンの仮装写真をいちいちFacebookに上げられることが嫌いな人。

(4)バーベキューは正直暑いし面倒くさいし、肉はマズいし、砂埃がすげー、うぜぇ、なんだったら素直に焼き肉屋行こうぜオラ、そのほうがビールも冷たいしいいわぃ、と思う人。

(5)「行けたら行く」という言葉が嫌いな人。

(6)「コスパ」という言葉を重視し過ぎる人を嫌いな人。

(7)芸能人のブログやInstagramで公開された写真に「かわゆすぎる!」とかいちいちコメントを書く行為をバカげた行為だと思う人。

(8)なんらかの勉強会やセミナー、異業種交流会でネームプレートをつけるのが嫌いな人。そもそもこの手の会が嫌いな人。

(9)高崎山のサルに「シャーロット」と名付けた件について、「英王室に失礼です!」や「不敬だ!」とクレームをつけた人々のことをバカだと思う人。

 これ以上の例を挙げても仕方ないのだが、上記9項目のうち、6個以上が当てはまる方にとっては、本書はしっくりくることだろう。それは同時に、あなたが世間様から見た場合に「ひねくれ者」であることを認めなくてはいけないことも意味する。私はすべて当てはまっている。これについては「オレって正直者」としか自分では思わないのだが、世間からは「身も蓋もない人」「空気を読まない人」「それを言っちゃおしめぇよ。協調性のない人」「ズレた人」と解釈され、疎まれる。

 こうしたスタンスで生きている人は、メディア全般における週刊誌的な立ち位置なのである。テレビ・全国紙の場合、バーベキューについては「仲間と楽しくワイワイ」「最近は準備代行業者がいてこんなに便利」「バーベキューの達人男性に100倍楽しむコツを聞いた」という文脈でしか描くことはできない。

「バーベキューは正直暑いし面倒くさいし、肉はマズいし、砂埃がすげー、うぜぇ、なんだったら素直に焼き肉屋行こうぜオラ、その方がビールも冷たいしいいわぃ、と思う」は週刊誌でしか書くことはできない。テレビ・全国紙の場合はクレームが来るからである。

「私はバーベキューが大好きなのに、なんでこんな捉え方をするんですか!」「私はバーベキューのグッズを売っています。営業妨害です!」「今週末、バーベキューに行くのに気分が落ち込んだじゃないか! 謝罪と賠償を要求する!」みたいな話になる。

 週刊誌のコラムや記事を読むと、まぁ、そこにはのほほんとした世界はほとんどない。それでもクレームが来ないのは、週刊誌の読者というものは「のほほんなんていらねぇよ。別に傷つかねぇよ」としか思わないわけで、そういった人々のコミューンのようなものである。本書も同様のコミューン的性格を帯びた本である。

『24時間テレビ』と『NHKのど自慢』の人気に異議を呈するとひねくれ者

 結局こうした「正直者の感覚」は、世間では調和を乱す厄介者でしかない。仮にそう思ったとしても「口に出しちゃマズいだろ」ということになる。これこそが世間様のスタンダードであるがゆえに、『24時間テレビ』のマラソンが41.9%の視聴率を記録し、ダサい『NHKのど自慢』に喜々として出演する老若男女が、21世紀も16年目だというのにいまだにうじゃうじゃ存在しているのである。なーにが「ひろし先輩、ファイトで歌おう! 後輩一同」だっつーの。その横断幕つくるのがお前らの人生のハイライトかよ、お前よくも全国にツラ出してそのヘタクソな歌を晒せるよな、なんて思うのである。まぁ、こんな感想を述べると「誰にも迷惑はかけていません!」「なんで人の楽しみにケチつけるのですか!」となる。そりゃそうだわ、オレは確かにひねくれてる。

 本書のアプローチは、著者と編集者が気になるというか、違和感を覚えるというか、「このクソ言葉が、ボケ!」と思うものを決定し、それを題材に一つの章を完成させる形式を取っている。世間がごく普通に「紋切型」で述べることや世間が礼賛する言葉・現象に対して、「違和感あるよなぁ……」と意見を表明した内容だ。「あなたにとって、演じるとは? ~『情熱大陸』化する日本~」「禿同。良記事 ~検索予測なんて超えられる~」「うちの会社としては ~なぜ一度社に持ち帰るのか~」「逆にこちらが励まされました ~批評を遠ざける『仲良しこよし』~」など合計20の言葉を取り扱っている。

 最初はなぜか『ドラえもん』に登場するジャイアンの話から入っていくが、いつのまにか「うちの会社としては」にたどり着く。そして、こんな身も蓋もない結論になる。

「『社で検討したところダメでした』って、つまるところ『上司に相談したらダメだと言われた』なのだが、『社で検討したところ』には、結果を引き受けたくはないオーラが漂う」

「『うちの会社』は、すぐそこで誰か一人が解決できそうな問いであろうとも、絶対にそこでは答えない。すぐに答えてしまいそうな仕組みを流布してはいけないように出来ている」

 なんのこたぁない。「うちの会社として」と何やら巨大組織を連想させて、大仰な仕組みと厳密なる検討の結果、自分に責任がないようにしているだけである。あるいは、重大案件に必死に全社一丸となって取り組む様をパフォーマンスとして見せ、カネをより多くもらうための正当性を付与しているだけである。「うちの会社としては」という一つの言葉に違和感を抱くと、ここまで話を膨らませられるのだ。

誰かを幸せにする原稿でなくてはいけないのか?

「うちの会社としては」という言葉は安易に使いがちだが、著者はこうして一つひとつの言葉に対し、著者にとっての正直な気持ち=世間にとってのひねくれ解釈を加えていく。全編に通じるのは、著者が7年間のサラリーマン生活で、いかにバカげたしきたりや、非合理的な慣例によりビジネス・社会が回っているかを感じ取った様を描いた点である。それこそ、ひねくれ者にとっては違和感ありまくりの事象に対し、丁寧な異議を呈した点は案外若手ビジネスマンや学生にとっても参考になるかもしれない。

 また、本書で一つ私自身参考にさせられたのが、「むかつく言葉を一つ準備→そこから周辺の関連しそうなことを書きまくる」というアプローチが思わぬ文章の展開を呼ぶ、ということだ。これはいい思考のアイディアをいただいたぜ、ウヒヒ、と思った次第である。

 別に「ひねくれ者」であろうが、「マイナー」であろうがいいではないか。嫌いなものは嫌い、ウザいことはウザいと言い切れるほうが恐らく人生はラクである。あと、この本に書かれたスタンスと著者の考えが好きであろう人間が仮に世の中に10%しかいないとしても、日本全体で考えれば約1270万人もいる計算となる。それだけ仲間がいれば、この世は充分である。

 最後に私が「禿同」し、「まぁ、世間ってそういうもんだよな」と改めて認識し、色々なことを諦める気持ちを強めた一節を紹介しよう。

「批評性が比較的強い原稿を出した際に『面白いんですが、この原稿を読んで、誰がハッピーになるのですか?』と問われたことがある。メールで送られてきた文面を見ながら目を疑った次に相手を疑い、『原稿とは、ひとまず人をハッピーにしなければならないのでしょうか?』と返すと、『まぁでも、わざわざdisる必要はないですよね~』と再度返されてしまう。そのポップな澄まし顔に対する返答をどうにも用意できなかった」

『24時間テレビ』が37回も続く社会というのはまぁ、こんなもんなのである。しかも、いまだに日テレの社員にとっては年間でもっとも大切な一日になっているのである。
(文=中川淳一郎/ネットニュース編集者、PRプランナー)

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