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舘内端「クルマの危機と未来」

電気自動車と燃料電池車は利便性が劣る、との批判は“人間として”軽率である

文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表

 しかし、内燃機関自動車は環境・エネルギー問題を抱えており、永久に使えるわけではない。とはいえ脱石油化を図って、他の燃料(天然ガスやバイオ燃料)に置換すれば、利便性はたちどころに悪化する。また、二酸化炭素の排出量をこれ以上削減すれば、北京の大気汚染で知られるようになったPM2.5が増え、走行性能や乗り味も大幅に犠牲になる。

 だから次世代車が必要になるわけだが、電気自動車にしても始まったばかりの燃料電池車にしても、これまでの内燃機関自動車のように便利に、快適には使えない。

 その象徴が航続距離であり、エネルギーの充填や充電の問題である。燃料電池車で航続距離を伸ばすには、水素の充填圧力を高めなければならず、電気自動車では電池が重くなり、燃費が悪化する。

 いずれにしても効率は低下し、それだけ充填、充電に伴う二酸化炭素の排出量は多くなる。内燃機関自動車同様、便利に使おうとすると二酸化炭素の排出量が増えてしまう。

 では、どうするのか。これは、政府、自動車メーカーだけではなく、私たちユーザーが次世代車の航続距離やエネルギーの充填・充電の問題をどう受け入れるのかという問題でもある。航続距離が短いからダメだという前に、航続距離伸張の背後にあるさまざまな事象に目を向けなければない。

 そして、利便性の悪化とどう向き合うのか。私たちにも、少しばかり覚悟が必要だろう。

内燃機関自動車の問題

 ガソリンや軽油も、原油の探査、採掘から精製、運搬、貯蔵と、内燃機関自動車の燃料タンクに届くまでに、さまざまな巨大なシステムを経なければならない。また、石油輸入国は、豊かな石油が埋蔵されている地域の安全保障まで担わなければならない場合さえある。重厚長大な石油生産・供給システムを長い時間をかけて構築し、さらに時には軍備を増強したがゆえに、私たちは内燃機関自動車の利便性を享受できるわけである。

 こうした内燃機関自動車の背景を忘れて、電気自動車の充電時間の長さや、燃料電池車の水素製造と充填の問題を論じることはできないのではないだろうか。

 その点、例えば太陽光パネルで発電した電気をインバーター経由で充電できる電気自動車は、エネルギーの生産から補給(充電)までが大変シンプルである。あるいは、太陽光等の自然再生可能エネルギーで発電した電気で水素を生産すれば、燃料電池車が抱える二酸化炭素排出量の問題も解決可能である。

 次世代の自動車をどう選ぶか。それは次世代のエネルギー構成をどうするかという問題を抜きには考えられない。もちろん、それは私たちの問題だ。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)

舘内端/自動車評論家

舘内端/自動車評論家

1947年、群馬県に生まれ、日本大学理工学部卒業。東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京〜大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書は、「トヨタの危機」宝島社、「すべての自動車人へ」双葉社、「800馬力のエコロジー」ソニー・マガジンズ など。
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。
日本EVクラブ

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