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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

一日6百人殺到!広島の奇跡の喫茶店、何がスゴい?モーニング発祥は愛知じゃない?

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

あの「談話室滝沢」に学び、ベーカリーカフェとして進化

 克久氏は、立教大学社会学部観光学科(当時)を卒業後、家業を継いだ。先代からの伝統を受け継ぐだけでなく、自らも研鑽して商品やサービスを進化させていった。ハンバーグなど、ごはんもののランチも手がけている。興味深いのは、今なお首都圏の人の記憶に残る喫茶店「談話室滝沢」(66~05年)に学んだことだ。

「実は滝沢を創業した滝沢次郎さんは広島県の出身です。人づてに紹介してもらい、何度か教えを受けました。『滝沢はコーヒーやジュースで勝負しているのではない。接客する女性の人間性とサービスを売り物にしているのだ』と語っていましたね」(克久氏)

 談話室滝沢は、東京都内の新宿駅や御茶ノ水駅、池袋駅周辺に店を展開した。コーヒーや紅茶は1杯1000円と割高だったが、店に何時間いてもよかった。接客する女性は東北地方の公立高校出身者を募集して、採用者は寮生活を送り、華道や茶道の作法を会得。サービスの本質を学ばせたうえで接客させていた。

 当時は各店とも21時すぎまで営業しており、特にメディア関係者に重宝されて人気だった。「時代が変わり、昔ながらの従業員教育ができなくなった」ことが閉店理由だという。

「滝沢さんにサービスの本質を学んだ一方で、先代が亡くなってから次の発展を考えました。そこで自家製パンの開発に取り組んだのです。当初は職人に委ねていましたが、独学で勉強し、今では自分で焼いています」(同)

 これが新たなお客を呼び込んだ。家族で切り盛りする店なので、娘の末広朋子氏が商品を開発し、克久氏が生地から作って焼く。妻の規里美氏も店で接客を担う。焼き立てパンを販売する「ベーカリーカフェ」の側面もあり、「パンだけを買われるお客様を含めると1日に500~600人が来店される」(同)という人気店だ。

 カフェのモーニングも豪華になった。朝7時から10時30分まで「Aモーニング」(パン、ゆで卵、サラダ、ドリンク)が550円、「Bモーニング」(パン、目玉焼き、サラダ、ドリンク、ミニジュース)が650円で提供されている。

「食材にも気を配っています。野菜は国産にこだわり、コーヒーを淹れる水も現在は県内にある景勝地・龍頭峡から汲んできた水を使っています。以前は別の名水を使っていましたが、お客様から勧められて試飲した結果、こちらのほうがよりおいしいと判断し、変更いたしました」(同)

 地域一帯にモーニング文化が広まらなかったのは、周辺の環境変化もありそうだ。かつて近くには広島大学があったが、同大学は20数年前に移転してしまった。学生街だった当時から残っている店は少ない。それでも同店には常連客が多く、インターネットを見て知ったという若い世代も訪れるという。

「移転前の広島大生で学生時代に通われていた方が、定年後、ご夫婦で再来店されるケースもあります」(同)

 スターバックスやコメダの人気は確かに高いが、国内各地の個人店店主が創意工夫を続けたことで日本の喫茶文化は発展してきた。後継者不足で閉店する老舗店も多いが、同店は次代を担う三代目が毎日お客と向き合っている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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