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金子智朗「会計士による会計的でないビジネス教室」

ROE経営の落とし穴 株主への利益還元ブームが企業を滅ぼす?社員への還元が成長を生む

文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

 米シリコンバレーでは配当すらしないのがむしろ普通だ。例えば、マイクロソフトは1975年の創業以来しばらくの間、ずっと配当しなかった。アップルも、配当に対しては非常に消極的だった。マイクロソフトは2004年になって初めて配当をし始め、アップルはスティーブ・ジョブズが亡くなってから間もなく積極的な配当を発表した。いずれも、成長の鈍化と歩調を合わせるように配当を開始しているのは偶然ではないだろう。

還元すべきは株主か従業員か

 資金に余剰感があるなら、株主ではなく従業員に還元してみたらどうだろう。つまり、給与・賞与を増やすということだ。株主に還元したら企業を縮小させることにしかならないが、従業員に還元すれば新たな富が創出されるかもしれない。

 従来の資本主義を簡単に言えば、「カネがカネを生む」という考え方だ。確かに、かつてはカネがあれば工場を作れ、設備を導入し、原材料が買えた。あとは工場で働く安い労働者を確保すれば、極端な話、明日からでも新たな富を生み出せた。現在でも、新興国において先進国の企業が工場を建設するのは、基本的にそういうことだ。「カネがカネを生む」という前提の下では、最も重要な経営資源はカネということになる。したがって、カネの提供者である株主が最も重要なステークホルダーである。

 しかし、米経営学者のP.F.ドラッカーは、「“ポスト資本主義”において最も重要な経営資源は知識だ」と主張している。確かに、少なくとも先進国においては、カネがあっても新たなカネは生み出せない。新規上場したベンチャー企業がしばしば調達資金を持て余すのも、そのことを物語っているのだろう。重厚長大型の企業と違い、彼らにとって必要なのは、カネではなく斬新なアイデアだからだ。

 その最も重要な経営資源である知識を提供できるのは株主ではない。企業で働く従業員だ。株主はカネを提供できても、ノウハウやアイデアなどの知識は提供できない。ということは、ポスト資本主義において最も重要な経営資源を提供するのは従業員ということになる。そう考えれば、余剰資金は株主ではなく従業員に還元したほうが、新たな富を生みそうなものである。しかし、従業員に対する還元を積極的に増やすという話はほとんど聞こえてこない。

 もっとも、ドラッカーが想定しているような知識を提供する従業員が、どれだけいるのかという問題もある。実際には、大半の時間は何らかの“作業”をこなしているだけという従業員は少なくない。会社に“行く”ことが“仕事”だと思っている人もいる。そんな従業員ばかりならば、給与や賞与を増やしても無意味であることはいうまでもない。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表

1965年神奈川県生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修士課程卒業。卒業後、日本航空(株)において情報システムの企画・開発に従事。在職中の1996年に公認会計士第2次試験合格。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(株)入社。2000年公認会計士登録し、独立。2003税理士登録。2006年ブライトワイズコンサルティング合同会社(www.brightwise.jp)設立、代表社員就任(現任)。
ブライトワイズコンサルティング

Twitter:@TomKaneko

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