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トヨタ役員逮捕、不可解な容疑者擁護から一転して辞任の謎 「いい加減人事」の代償

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豊田章男トヨタ社長
 麻薬を密輸した疑いで逮捕された、トヨタ自動車初の女性役員のジュリー・ハンプ常務役員が、6月30日付で辞任し、トヨタ社内に衝撃が広がっている。

 ハンプ氏は麻薬であるオキシコドンの錠剤を入れた小包を米国から輸入したとして、6月18日に麻薬取締法違反容疑で警視庁に逮捕された。日本を代表する大企業の現役役員が麻薬所持で逮捕されるという異例の事態を受け、逮捕翌日に東京本社で緊急記者会見した豊田章男社長は「ハンプ氏はトヨタにとってかけがえのない仲間」と、麻薬所持の容疑者を擁護したものの、水面下で捜査状況を探った結果、問題が長期化すると経営にも影響が及び、トヨタのブランドイメージ悪化は避けられないと判断。一転して辞任に追い込んだとみられる。

 ハンプ氏は米ゼネラルモーターズ(GM)などを経て2012年に北米トヨタの副社長に就任し、今年4月、トヨタ初の女性役員として広報を担当する常務役員に就任したばかり。外国人や女性の登用など人材のダイバーシティ(多様性)で遅れているとされるトヨタにとって、ハンプ氏の常務役員就任は「目玉人事」だった。特に、安倍晋三政権が「女性の活躍促進」を掲げる中で、日本を代表する企業であるトヨタが今春の役員人事で女性役員を登用することは至上命題だった。

「日本人の女性役員を登用した場合のやっかみを懸念した経営上層部が、外国人であるハンプ氏ならと安易に考え、たいして人物評価もせずに役員への起用を決めたようだ」(トヨタ関係者)

 豊田氏はハンプ氏逮捕後の記者会見で「捜査を通じて法を犯す意図がなかったことが明らかにされることを信じている」と述べて容疑者を擁護。さらに「従業員は私にとって子供のような存在。子供を守るのは親の責任」とまで述べた。ハンプ容疑者を「トカゲの尻尾切り」のように辞任させると、今後の人材多様化に影響が及ぶためだ。

問題収束のために苦渋の決断


 しかし、6月23日には愛知県豊田市のトヨタ本社など3カ所に家宅捜索が入ったほか、新型車発表会見の中止が検討されるなど、事件をめぐる問題が経営にも影響を及び始めた。ハンプ氏は容疑を否認しており、問題の長期化による事態の深刻化を回避するため、トヨタはハンプ氏を「切る」ことで問題の収束を図る苦渋の決断を選択した。

 トヨタはハンプ氏の辞任届を受理した上で、「世界のどこでも社員が安心して働き、活躍することができるよう、改善すべき点はしっかりと改善した上で、『真のグローバル企業』を目指し、国籍、性別、年齢などにかかわらず、多様性を尊重し、適材適所の考え方に基づいた人材登用を今後も進める」とのステートメントを公表した。

 それでも今回の事件を受けて、外国人や女性の起用に慎重にならざるを得なくなるのは必至。グローバル展開を加速しているトヨタだが、人材の多様化に向けて大きな試練を抱えることになった。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)