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小林敬幸「ビジネスのホント」

中国株急落は想定内である 日本への影響はギリシャ危機より大だが、リーマン未満

文=小林敬幸/『ビジネスの先が読めない時代に 自分の頭で判断する技術』著者
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 ギリシャは、過去に何度もデフォルトと通貨切り下げを行っている。国家が破産して借金を踏み倒し新しい通貨に切り替えるなど、恐ろしい事態だと思われがちだが、これまでデフォルトと通貨切り下げを繰り返してきたギリシャやアルゼンチンにとっては、国を存続させるための調整、すなわち「エコシステム」といえなくもない。ユーロに離脱の手続きがないから離脱できないというのは、本末転倒だ。人間が幸せになるための制度であって、制度のための人間ではない。制度は変えればよい。

 また、ギリシャが離脱すると他に離脱する国が続くリスクがあるというのも、同様に本末転倒の理論だ。離脱する手続きを決める一方で、その国が離脱しなくてもよいようにするのが本筋だろう。DV(家庭内暴力)や夫婦げんかが絶えない時に、どちらかを叱責するばかりで離婚させないのは、人の道から外れている。離婚か別居する方法も整備しながら、DVが起こらないようにするのが、あるべき姿だろう。

統一通貨の難しさ

 債務減免については、モラルの問題がよく持ち出される。確かにギリシャ政府が09年まで財政上の数字を世界に対してごまかしてきたのは悪い。しかし、その恩恵を受けていなかった世代も含めて、ギリシャ全体はかなりの懲罰をすでに受けている。5年前の取り決め以降、ギリシャ政府は支出を削減し、増税し、そして基礎的財政収支(プライマリーバランス)を240億ユーロの赤字から30億ユーロの黒字に転換した。また、GDPは8年間で25%、輸入は40%減少した。公式の失業率は25%だ。

 仏経済学者のトマ・ピケティ氏は、ドイツは第1次・第2次世界大戦後の対外債務を返済しなかったと指摘して、他の国に説教できるような立場にないと主張している。若干極論の印象が強いが、ギリシャを回復可能性のない状態にしたまま先の見えない制裁を科し続けると、暴走を招きかねず、周辺国にとってもよくない。それは、ドイツが身をもってよく知っているのではないか。

 ギリシャ問題をみてつくづく感じるのは、統一通貨を維持するには、生産性の格差が時とともに変化するのに合わせて所得の再分配が必要だということだ。財政が統一されているなら、高度成長期の日本のように都市から地方に、工業から農業に、財政による所得の再分配ができる。しかし、ユーロのように各国の財政がバラバラのままで通貨を統一すると、財政単位間の所得再分配が必要になる。それをしないと格差が加速度的に拡大するし、モラルハザード的な過大な貸付が起こり、通貨統一が維持できない。

 今回ギリシャをユーロ圏に残したとしても、数年後にまた債務危機になる可能性も高い。ピケティ氏がいうように、ギリシャだけでなく複数の欧州諸国の債務再編をして、所得の再分配をする必要があるだろう。

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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