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ソニーは「つまらない会社」に成り下がったのか 「遺産相続」ではなく「新しい財産」を築け

文=長田貴仁/岡山商科大学教授(経営学部長)/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー
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東芝の「利益創造」

 そして新事業創造がうまくいっていなかったことでソニーやシャープどころの騒ぎではなくなったのが、不適切会計問題で連日のように報道された東芝である。今回の件で会長を辞任することになった西田厚聰元社長にインタビューしたとき、「東芝にしかつくれないというものは10%程度であり、製品の90%はコモディティ化している」と話し、「グローバル展開が必要」だと強調していた。

 大企業ではイノベーションは生まれにくい、といわれている。それは減点主義の風土がある一方で、新事業を創造しても高く評価されないからである。そこで、西田社長時代に東芝では、イノベーションを体系化するために、その事例集「イノベーションブック」をつくり、イノベーション統括部が管理し、社員に浸透させようとしていた。しかし、屋台骨となるイノベーションは出現しなかった。

 原子力畑一筋の佐々木則夫氏を後継社長にすることで、原子力事業を稼ぎ頭にしようとしたが、東日本大震災でその戦略はもろくも崩れた。後を継いだ田中久雄社長は、ヘルスケア(医療事業)を半導体、電力システムに次ぐ第三の事業の柱に育てようとしたが、これとて、先輩が残した経営資源である。新事業創造とはいえないばかりか、世界にはGE(ゼネラル・エレクトリック)など強力なライバルが存在し、その中で高いシェアを確保することは容易ではない。国内で常にライバル視してきた日立製作所は、海外で積極攻勢をかけ、業績が見事に回復した。東芝には焦りが出たのだろう。それが、新事業創造ではなく不適切な「利益創造」に走らせた。

 7月29日、東芝の経営を監督する取締役会議長として三井物産の槍田松瑩前会長(72)を招く案が浮上している、という報道があった。東芝は、「議長、会長、社外取締役を含め、就任を打診していない」と否定した。ともあれ、三井物産元幹部は話す。

「槍田さんが上に来ると、徹底的に管理されますよ。きついですよ」

 東芝の不適切会計問題を機に、企業倫理、コンプライアンスを重視したコーポレートガバナンス(企業統治)に関する議論が盛り上がっている。だからこそ「締めつける人」が求められるのかもしれない。

 しかし、その陰で、新事業創造の議論がないがしろにされているのではないか。儲かってしょうがない事業があれば、会計操作など必要ないはずである。特に、モノづくりが本業であるメーカーは、原点に立ち戻り、社長自らが、製品、事業を社内外で楽しそうに語り、ワクワク感を出してほしいものだ。「仏つくって魂入れず」のコーポレートガバナンスに関する議論よりも、夢を語り、実現することが今の日本企業に求められている課題ではないか。

 経営者だけでなく管理職たちもが賢くなりすぎて、日本企業は「つまんない会社」に成り下がっていないだろうか。賢いだけの経営者のもとで働く従業員は、本当に「つまんない」のである。
(文=長田貴仁/岡山商科大学教授<経営学部長>/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー)

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