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『磯野家の相続』の弁護士と『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の会計士が語る"芸能人の危機管理マニュアル"(前編)

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――ベストセラー『磯野家の相続』(すばる舎)の著者としても知られる弁護士・長谷川裕雅氏の新刊『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』が話題だ。同書では、書名にもなっているみのもんたをはじめ、矢口真里、島田紳助、SMAP、清原和博、AKB48、ASKA……といった近年取り沙汰された芸能人のスキャンダルを法的な視点で読み解き、バッシングの回避方法から裁判での戦い方まで、不祥事を乗り切る術を解説している。

 そんな興味深い一冊を著した長谷川氏と、大ベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)の著者であり、芸能人専門の会計事務所を経営する会計士の山田真哉氏に、芸能人の危機管理をテーマに語り合ってもらった。ここでは、その対談の前編をお届けしよう。

裏稼業に手を染めるタレントたちの懐事情とは


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『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』(サイゾー)

――今回は、「法律」と「会計」の観点から芸能人の危機管理について対談いただきたいのですが、もともとお二人はお知り合いだったそうですね。

山田:会計士と弁護士がタッグを組んでひとつの案件に取り組むケースは多いんですよ。1年ほど前、ある芸能人の方の相続問題を処理する仕事が舞い込んだときに、「そういえば、『磯野家の相続』を書いた相続に強い弁護士さんがいたな」と思いついて、長谷川先生にお声がけしたんです。

――山田先生のビジネスパートナーでもある長谷川先生は、新刊『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』を出版されました。山田先生には同書を事前に読んでいただきましたが、ご感想はいかがでしたか?

山田:僕は芸能人専門の会計事務所を経営しているのですが、そこには多少のミーハー心もあるんですね。普段から芸能人のスキャンダル記事も好んで読んでいるので、今回の本も興味深く読ませていただきました。

長谷川:そういえば、山田先生が今年出版された小説『結婚指輪は経費ですか? 東京芸能会計事務所』(角川書店)でも、芸能人の不祥事対応がテーマになっている短編がありましたね。税務調査の場面など、まさに芸能人の危機管理について書かれていました。

山田:ステマブログをネタにした短編のことですよね。ところで、ステマ行為は軽犯罪に抵触するんですよね?

長谷川:会社との共犯性の有無も争点になりますが、合法・違法の問題は生じますね。

山田:長谷川先生の『みのもんた~』にも書かれていたペニオク(ペニーオークション)のステマ事件は、所属事務所を通さないでペニオク側の依頼を受けていたタレントが多いんですよね。それはいわゆる“裏稼業”になりますが、税務の観点では「事務所を通さない収入も確定申告しているか?」という点が問題になります。もし申告しなかった場合、「売上除外」という悪質な脱税だと認定されますので、あの事件は注目していました。

長谷川:事務所を通していたとしても、公序良俗に反する案件ですね。

山田:確かに、公序良俗に反することは民法上は無効になるんですが、税務上は関係ない。お金はお金できちんと確定申告すれば問題ないんです。むしろ、違法な収入だからといって、売上に入れないほうが問題です。

長谷川:一口に違法といっても多元的で、会計法上は合法だけど民法上は違法ということもあるんですよね。だから、チェックのポイントがひとつではダメだということです。

山田:ただ、事務所に搾取されていると強く感じている芸能人は多いんですよ。「自分はこんなに働いているのに、ギャラは事務所に抜かれて5、6割しかもらえない。事務所は一体何をしてくれているの?」という気持ちを抱きやすい。だから、「直接受ければ30万円あげますよ」といった裏稼業のオファーがあると、すごく魅力的に感じてしまうんです。

長谷川:ペニオク事件で名前が挙がったほしのあきさんなどは、事務所に搾取されていると感じていたのかもしれない……なんて想像力を掻き立てられます。ただ、そういった芸能界の事情は、世間一般にはなかなか理解しづらいですよね。最近では、能年玲奈さんが独立・洗脳騒動で話題になりましたが、彼女と所属事務所との間には表に出てこない事情がいろいろあるのでしょう。

山田:芸能人は常に不安を抱えているんですよ。人気商売なので、いつ仕事がなくなるかわからないですから。事務所のスタッフは会社に守られているけれど、自分はそうではないとしたら、人気があるうちにオイシい仕事は取りにいこうと考えると。ペニオク事件に関わった芸能人たちは、ファンの目線からすれば裏切りですが、彼らのビジネス的な背景を考えると同情はしますね。税務上は申告していれば問題ないですし。

長谷川:楽しんごさんがマネージャーを暴行した事件は『みのもんた~』でも触れましたが、彼も裏稼業をしていましたね。

山田:ただ、芸能人の仕事現場に付き添うマネージャーも薄給のケースが多くて、それが悪循環を生んでいるんです。マネージャーとしては、タレントのために必死で頑張っているのに、当のタレントからストレスをぶつけられるのでは報われないですよね。

長谷川:抑圧の移譲のような構図になっている部分はありますね。

山田:私は芸能事務所の税務顧問も務めていますけれど、事務所側からすればギャラの4、5割はもらわないと経営が成り立たないんです。浮き沈みが激しい業界の中で「このタレントの人気があるうちにたくさん稼がねば……」という意識は当然あります。所属タレントの管理や営業には諸々の経費がかかりますからね。また、タレントといっても売れていない人が大半なんですけれど、その人たちにも最低限の給料を払う事務所もあります。さらに、仕事がない俳優に舞台を用意したり、売れないお笑い芸人のためにホールを借りたりすることもある。

長谷川:ただ、コンサートにしろお笑いライブにしろ、舞台ビジネスにおいて興行収入自体はほぼ赤字で、それだけでは儲からない仕組みになっています。会場でお客さんにグッズを買わせたり、事後にコンサートなどの模様を収録したDVDを売ったりしないと、ペイできないと聞きます。

山田:例えば、1000人収容のホールを一回借りるには、数百万円かかります。だから、芸能事務所の経営というのは現実的になかなか厳しいんですよ。儲かっている事務所は一握りで、大手だっていつ潰れるかわからない。

長谷川:なるほど。お笑い芸人の中には、ギャラの安さをネタにするような人もいますね。

山田:そういう芸人が所属する事務所というのは大体、ギャラの取り分の比率をあえて決めていないんです。この仕事は事務所が9割で芸人が1割だけど、あの仕事は折半にする、といった形ですね。あるいは、「この仕事でギャラをたくさん渡すとタレントが増長するから、あえて少なくしよう」とか、「今回は頑張ったからちょっと多めにギャラをあげよう」とか、戦略的にやっている。良し悪しは別として、それも一種のマネジメントになっているんです。

ローンを組めない芸能人に高金利で貸し付ける某銀行


――いわゆる「一発屋」と呼ばれる芸能人が、短期で稼いだお金を元手に投資に手を出すこともありますよね。

山田:コウメ太夫さんが有名なケースですけれど、実際には少ないですよ。10人中ひとりいるかどうか。そのひとりが目立つだけで、多くの芸能人は知識がないのでやらないですね。稼いだ分だけ全部使ってしまう人が大半だと思います。

長谷川:それは勇気があるというべきか、リスキーというべきか……。

山田:でもやっぱり、お金があると使っちゃうんですよ。芸能界でよくある金銭トラブルといえば、「たくさん稼いだので、その分の所得税を払わなくてはいけないけど、翌年春の納税時期にはもうお金がない」とか「翌年夏から請求がくる住民税が全然払えなくて借金をする」というケース。住民税を支払うためにカードローンに手を出す人は、非常に多いですね。

――自営業の場合、キャッシュを残してもその多くが税金として持っていかれてしまうため、経費として使ってしまう、という考え方もありますが。

山田:そういう考えの芸能人もいますが、経費に計上できないお金の使い方をしてしまう人が多いです。マンションを買うのが最悪のパターン。不動産を購入してもあまり経費にはなりませんからね。賃貸だったら家賃の何割かを経費にできるのに、安心感を求めて自宅をつい購入してしまうんです。そうすると、キャッシュはなくなるし、ローンは残るし……。一歩間違えれば、地獄ですよ。

長谷川:しかも、収入が不安定な芸能人はクレジット的な信用がないので、不動産を買うにしてもローンを組めないこともありますよね。だから、どうしてもキャッシュで支払わざるを得ない。

山田:確かにローンの審査は下りづらいのですが、実際には某銀行が高金利で貸してくれるんですよ。タレント側は「ここなら大丈夫!」と喜んで借りますけど、冷静に考えれば、この時代に金利を5%とか取られるので、かなりえげつない話です。もちろん銀行側としては、芸能人の信用力に見合った金利を提示しているだけなんですけどね。

タニマチのお小遣いで生活する売れない芸能人のリスク


長谷川:芸能人の収入といえば、いわゆるタニマチは今の時代もいるんでしょうか?

山田:いますよ、芸能人が好きな人は多いですから。企業の社長さんなんかは「あの有名なタレントと親しくしているんだ」というのがステイタスになっていて、高級腕時計を身につけるように芸能人を連れて歩きます。その芸能人におだてられる社長は、周囲の人たちからも尊敬されるというわけです。

長谷川:お互いに引き立て合う関係になっていると。そういうタニマチがいる芸能人は、自分のお金を使うことはあまりなさそうですね。

山田:タニマチからお小遣いをもらいますからね。実際にいくらもらっているかは人によって違いますが、そういうお金は税務的には「贈与」の範疇になります。ただ、年間で110万円以下なら無税なので、事業としての「売上」にはなりません。だから、全然仕事がなくて「売上」はないのに、普通に暮らしている芸能人はたくさんいます。

長谷川:記録に残らない形でお金が渡っていると。

山田:売上がないのに、東京で一人暮らしをしている役者とかグラビアアイドルとかいますからね。「バイトもあまりせずに、どうやって生きているんだ?」と思いますよ。

長谷川:女性タレントの場合は、最終的にお金持ちと結婚するというゴールがありますが、男性タレントはなかなか難しいですよね。景気のいいタニマチがずっといてくれればいいですが、それも何の保証もないですから。

――一方、お金がらみのトラブルで消えてしまう芸能人もいるのでしょうか? 『みのもんた~』では、過去に詐欺罪で有罪となった小室哲哉さん、所得隠しが発覚した板東英二さんなどが取り上げられていますが。

山田:タレント自身が原因のケースだと、周囲の人たちに借金をして「飛ぶ」ことがありますね。芸能人仲間や先輩などからお金を借りて消えてしまうと。しかし、実際にトラブルになった件数でいうと、事務所側が飛ぶケースのほうが多いです。

長谷川:最近でも、事務所が夜逃げしたため、別の事務所に移籍した女性タレントが何人かいましたね。当然、給料は未払のままでした。

山田:そういう目に遭ったタレントは債権者になるので、事務所の債権者集会に来たりすることもあるんです。

長谷川:これまでにテレビ関係の仕事をして、ギャラが支払われないことが何度かあったんですね。さすがにテレビ局自体はしっかりしていますけど、小さな芸能事務所や番組制作会社にはそもそも経理部が存在しない場合もあります。そういう環境なので、お金に関してルーズになりがちなのかもしれません。

山田:それもありますし、そもそも資金繰りが厳しい事務所が多いんです。そういう事務所は結局、お金がなくてギャラが支払えなくなります。一般企業だったら、未払い給与の8割方が補填される国の制度がありますが、自営業の場合はそうした制度もないので、単にギャラの未払いで終わってしまう。そうした点でも芸能人はリスクが大きいですね。

領収書を見ればアイドルの私生活がわかる


――芸能人の不祥事といえば、暴力事件や薬物関係のトラブルも目立ちます。今回の『みのもんた~』でもASKAさんや酒井法子さん、島田紳助さんの事件について書かれていますが、やはり芸能界には表沙汰にならない“闇”の部分があるのでしょうか?

長谷川:週刊誌の記者さんなどに話を伺うと、今テレビの最前線で活躍しているような芸能人でも、反社会的勢力と付き合っているという話はよく聞きますね。なかでも、暴力団に属さない犯罪組織である“半グレ”と親しくしているケースが多いとか。芸能人は生活リズムが一般の会社員とまったく異なるので、そういう人たちと遊び場なんかも重なってくるそうです。かつての与沢翼のような人間も含め、いつも六本木にいるような職業不明の人たちと知り合う機会は必然的に多いのでしょう。

山田:こと薬物に関していえば、業界にユーザーの割合が多いと、やはり汚染が広まりやすいですね。芸能界に限らず、ファッション業界もそうだといえますが、業界内の横のつながりでドラッグは浸透していくのです。割れ窓理論といいますか、「朱に交われば赤くなる」といった傾向が、薬物についてはある気がしますね。ただ、誤解してほしくないのは、芸能界でスキャンダルや不祥事を起こすと非常に目立つものの、大半の芸能人はクリーンだということ。一般企業でも不倫をしたり派手な夜遊びをしたりする人はいるわけで、それと比べて芸能界の不祥事は“やや多い”という程度だと思います。

――不祥事はメディアに盛んに取り上げられるので、芸能界にはどうしても黒いイメージが付きまとってしまいますね。

山田:私見ですが、芸能界は10万人企業のようなものなんですよ。『日本タレント名鑑』(VIPタイムズ社)には1万人ほど載っていますが、そこに載らない芸能人も含めれば10万人はいるはず。そうした規模の組織だと考えれば、当然いろいろな人がいるわけで、不道徳な芸能人もいます。逆に、本当に真面目な人もいて、恋人もつくらずアイドル道を貫いているアイドルだっていますからね。真面目かどうかは、経費を見れば一発でわかるんですよ。

長谷川:それは面白い(笑)。お金の使い方を見れば、私生活の中身がわかってしまうと。

山田:真面目なアイドルに「領収書を出して」と言っても、何も出てこないんです。せいぜいタクシー代の領収書くらいで、ほぼ自宅と事務所の往復しかしていないことがわかる(笑)。税金を抑えるためにはもっと領収書があったほうがいいのですが、服も買っていないし、遊びにも行かず、自宅やスタジオで歌とダンスの練習ばかりしている。しかし、一部のアイドルがスキャンダルを起こすと、全体に悪いイメージが広まってしまう。できることなら、本当に真面目なアイドルの名前を公表したいくらいですよ(笑)。

<後編は明日16時公開予定です!>

(構成=呉琢磨)

長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
弁護士・ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、朝日新聞社の記者に。夜討ち朝駆けで多数の事件関係者に張り付く中で、当事者と一緒に悩む立場に身を置きたいと弁護士に転身。主な著書に、ベストセラーとなった『磯野家の相続』(すばる舎)の他、『家族内ドロボー』(光文社新書)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)などがある。

山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士・税理士。大阪大学文学部史学科卒。東進ハイスクールを退職後、公認会計士試験に合格し、2004年に独立。現在は日本最大級の芸能専門事務所である芸能文化会計財団で理事長を務める。著書に、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)、『女子大生会計士の事件簿』シリーズ(角川文庫)などがある。『美女と男子』(NHK)、『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ)といったドラマ監修も多数。