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『磯野家の相続』の弁護士と『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の会計士が語る”芸能人の危機管理マニュアル”(後編)

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――ベストセラー『磯野家の相続』(すばる舎)の著者としても知られる弁護士・長谷川裕雅氏の新刊『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』が話題だ。同書では、書名にもなっているみのもんたをはじめ、矢口真里、島田紳助、SMAP、清原和博、AKB48、ASKA……といった近年取り沙汰された芸能人のスキャンダルを法的な視点で読み解き、バッシングの回避方法から裁判での戦い方まで、不祥事を乗り切る術を解説している。

【前編はこちら

 そんな興味深い一冊を著した長谷川氏と、大ベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)の著者であり、芸能人専門の会計事務所を経営する会計士の山田真哉氏に、芸能人の危機管理をテーマに語り合ってもらった。前編では裏稼業、住宅ローン、タニマチなど芸能人のカネをめぐるトラブルやリスクに話が及んだが、ここではその対談の後編をお届けしよう。

離婚後の養育費を減らす禁断の裏ワザとは


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『みのもんたにならないための危機管理マニュアル』(サイゾー)

――『みのもんた~』では不倫スキャンダルで話題になった矢口真里さんの経済的な代償について書かれていますが、男女トラブルが原因で経済的リスクを負うことになるケースも多いですよね。ところで、離婚した芸能人の「慰謝料」は経費になるのでしょうか?

山田:慰謝料は経費になりませんね。まあ、芸能界で生き残っていくための戦略として「離婚キャラ」を演じている人の場合、ビジネス的に離婚したともいえるから慰謝料は経費になる、という言い分もあるかもしれませんが、それは認められない。ただ、養育費をなんとか経費にしたいという理由で、別れた配偶者に仕事を頼んでいる芸能人はいますね。例えば、養育費として月に20万払うことになったとして、10万円は養育費として、もう10万円は自分のマネジメント業務をしてもらう報酬として払う、という形にしたり。もっとも、元配偶者がちゃんとマネージャーとして働いている実態がなければ脱税になりますが。

――養育費の金額はどのように決まるのでしょう?

長谷川:基本的には離婚した相手と取り決めることになりますが、裁判所が設けた「養育費算定表」に基づいて決めるケースが多い。この算定表に基づく養育費の相場は、養育費をもらう側と払う側の収入の相関関係によって変わってきます。会社員と自営業者でも違いが生じます。自営業者の場合、数字上の収入よりも実際の可処分所得が多いということで、会社員に比べるとやや多めに算出されるようになっているのです。ということは、芸能人はサラリーマンよりも多く養育費を払うことになりますね。

山田:離婚して慰謝料や養育費を支払っている芸能人たちは、資金繰りに苦労しているケースが多いですね。例えば、養育費というキャッシュが月々何十万円と出ていく上に、自分の住宅ローンや、元配偶者の住宅ローンまで被っていると、なんだかんだで月に100万円くらいの固定費が発生する。さらに、それを払うための収入にはもちろん税金が発生するわけですから、もう悲惨なことになります……。

――もし収入が減って、養育費が払えなくなったら、どうなるのでしょうか?

長谷川:減額の申し込みをして、相手が任意で呑めば認められますし、ダメなら調停で金額の調整をすることになります。以前は「払いたくない」で押し通す人が割といたのですが、最近はそんなことをすると銀行口座が差し押さえられてしまうケースも。ただし、前編で話に出た裏稼業やタニマチからの小遣いなど、外部からわからない収入が大部分を占めていると、書類上は収入が少なく見えるため、養育費を減らすことができます。しかも、生活レベルを落とす必要もない。まあ当然、それがバレればタレント生命を奪われるというリスクも負っているのですが。

ブログが炎上しがちな辻希美は現代のトップランナー!?


山田:『みのもんた~』のなかで、「ネット上の書き込みを消すには」という項目がありますよね。最近、この問題が本当に増えていて、私のお客様でもネットメディアに根拠のない噂を書かれて怒っている方がいらっしゃいます。まあ、この対談記事もネットメディアに掲載されるわけで、こういう話をするべきではないのかもしれませんが……。

長谷川:ただ、ネット上のゴシップ記事に対して、芸能人側が一つひとつしらみ潰しに対応していくのも現実的ではないですよね。だからネット記事をめぐる問題は、メディア側だけでなくビューアー側もネットリテラシーに関する知見を広めていくことだと感じています。「東スポの抗弁」(かつて名誉毀損で訴えられた東京スポーツが行った、自紙に書かれていることを真に受ける人はいないため、名誉毀損に該当しないとの主張)という有名な話がありますが、実際、あるゴシップ記事について「この記事の書き方だと真偽は確定しない」とか「ソースが不確かだ」などとネットユーザーからツッコまれることもありますよね。完全にでっち上げの記事はもちろん断罪されるべきですが、「噂によると……」といった書き方が通用しなくなるくらい、記事を書く側も読む側もリテラシーを高めていく必要があるのではないでしょうか。

山田:とはいえ、芸能人側からすると、事実無根のゴシップを8割の人が信じなくても、2割の人が信じるのが嫌なんですよ。特に、ネットニュースだといろいろなメディアの記事が一緒に並ぶので、東スポと朝日新聞の記事が同じように読まれるということも起きる。最近のネットユーザーは、それを見分けることができなくなっていると思うんです。

長谷川:特に若い人たちは「この雑誌はこういうカラーのメディアだ」という前提を知らないまま雑多なネットニュースに触れますから、不確かな記事でも内容をまるごと信じてしまうリスクは確かにありますね。ただ、新聞記事の信ぴょう性にも度合いがあります。例えば、全国紙の中でも比較的発行部数の少ない新聞の中には、部数の多い朝日新聞や読売新聞のような大新聞がウラを取れずに書くのをためらっているネタでも書いてしまう勇気がある媒体もあるので(笑)、スクープをすっぱ抜くことが多いんです。でも、そうした性質は諸刃の剣で、そういう新聞はいわゆる“飛ばし”(ウラが取れず憶測によって書かれた不正確な記事)でも有名。それが長い間かけて蓄積していくと、結局メディアに対する評価としてはね返ってきます。もちろん、個別の記事で芸能人が被害を受けているケースもあるでしょうが、以前に比べればネットの世界にも“神の見えざる手”のようなものが働くようになってきているように思います。

山田:メディアを容易に見比べることもできますしね。その反面、ネットは伝播力が半端ではないので、昔の間違った記事が本家のサイト上では削除されても、勝手に転載され続けてネット上にいつまでも残ってしまうリスクがある。

長谷川:『みのもんた~』の小保方晴子さんについて書いたページでも触れましたが、いわゆる炎上したときは瞬時に対応して潰していくスピードが求められます。ネットにスキャンダラスなトピックが上がった瞬間のインパクトは強いので、拡散する前に火消しをしなければいけません。ただ、最近は有名人側もリテラシーが高まってきたのか、炎上してもうまく鎮火するケースが増えているという印象です。

山田:芸能人は注目度が高いからこそ、SNSの炎上などが起きやすいですよね。その意味では、芸能人たちは炎上問題も含めた現代的トラブルのトップランナーになっているともいえる。世の中のお母さんたちは、炎上しがちな辻希美さんのブログを見て、ネット上でどのような振る舞いをしたらアウトになるのか参考にしていると思うんですよ。

山本圭一、みのもんた、板東英二……芸能人が復帰する条件

長谷川:今回の本を執筆しながら疑問に感じたのが、過去にトラブルを起こした芸能人が復帰できるケースとできないケースに、いまいち規則性がないこと。例えば、元極楽とんぼの山本圭一さんはいまだ復帰できずにいる一方で、同じような問題を起こした板尾創路さんは比較的あっさり復帰している。「薬物トラブルを起こすとなかなか復帰できない」という意見もありますが、それもバラつきがあると思うんです。

山田:今はネット世論の影響もあると思いますが、一般企業でも左遷されて復活できる人、できない人がいますよね。その違いは「引き戻してくれる人」がいるか否かでしょう。これは、属している派閥や本人の人柄に大きく左右される。同じことは芸能界にもいえて、所属している事務所の力や本人が周囲に好かれているかどうかで、復帰のために力になってくれる人の有無が決まってくると思います。

――属している派閥の内部にそういった引き戻してくれる協力者がいないと、やはり復帰は厳しいのでしょうか?

山田:板尾さんの例でいうと、力のある先輩方が庇ったりしましたよね。先ほども話しましたが、芸能界は一般社会の延長として考えるよりも、10万人規模の組織だと考えたほうが理解しやすいかもしれません。世間の通念とはちょっと違うその組織なりのルールがあり、各派閥のパワーバランスは無視できないわけです。

長谷川:芸能界という10万人企業があり、そこには独自のコンプライアンスルールがあるということですね。

山田:まあ、社長が一人ではないから、役所のほうが近いかな。○○省や△△庁があって、それぞれにトップがいるような巨大組織ですね。協力者の有無の他に、「時が解決する」ということもあります。政治の世界などでもあるように、時間がたつことで禊になるということです。まあ、事件の大きさにもよるのでしょうが。

――今回の書名にもなっているみのもんたさんは、次男の不祥事により大バッシングされたわけですが、いまだに完全復活とはいえない様子ですよね。今後、彼がかつての勢いを取り戻すことはあり得ると思いますか?

山田:現実問題としては、年齢がネックになっているのでしょうね。復帰するためには先述した「引き戻してくれる人」の有無がポイントになるわけですが、年上が年下に手を差し伸べるケースが多いんです。そのため、高齢の大御所芸能人が一度転落してしまうと、這い上がるのは相当難しいと思います。

長谷川:みのさんと似たような世代でいえば、所得隠し問題で叩かれた板東英二さんの復帰会見が参考になるのかもしれません。「金に汚い」という黒いイメージがついてしまった自身のことを「銭ゲバ」であると開き直ってネタにしたのは、アプローチとしては悪くなかったと思います。みのさん本人はまた報道番組に戻りたいと思っているものの今のところオファーは特にないそうですが、同じように次男の件をむしろネタにすれば、露出は増えていくかもしれませんね。

山田:それと、タレントの人間性は重要。普段から周囲に好かれているような人柄ならよいのですが、そうでなければ……。大御所の芸能人というのは、会った瞬間に「偉そうだな」と感じる人が多いんですよね。みのさんにはお会いしたことがないので実際の人柄はわかりませんが、各番組のプロデューサーは彼より年下でしょうから、年上にはなかなか救いの手を差し伸べたがらないのかもしれない。一般論としては、「情けは人のためならず」ということわざがある通り、普段偉そうな人は復活するのが難しいんですよ。

長谷川:実は学生時代に石田純一さんとお会いしたことがあるのですが、たまたま女の子と一緒にいたからか、気さくに話してくれたんです。その後、彼は離婚や不倫で騒がれましたが、今も家族そろって芸能界で活躍していますよね。ある意味、マイナスをプラスに変えたというか、器の大きさにつなげたといえるでしょう。やはり、普段から腰が低い人は生き残っていけるということかもしれません。

山田:芸能人は番組の裏方や共演者など一緒に仕事する人たちには人間性を見られていますからね。同僚や上司、部下から好かれていないと出世できない一般企業の社員と同じです。その意味では、芸能界は実に日本企業的で、実力だけでなく人望でもキャリアが決まっていく世界。偉そうにしたり、天狗になったりする芸能人は人望が得られず、いざというときに立ち直れないのです。

長谷川:ただ、若い頃にバカ売れしたタレントはともかく、それなりに人生経験を積んでからブレイクした芸能人が急に偉そうになるのは不思議ですね。表面だけでも腰を低く見せることなんて簡単なはずなのに、なぜできないのか……。

山田:僕も『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』が売れた後は、すっかり天狗になっていましたから(笑)。でも、1年くらいたつと冷静になり、「ギャラのよくない仕事を偉そうに断ったりしたなぁ」と反省しましたね。僕が芸能人専門の会計事務所を始めてよかったと思うのは、自分の実体験もお客様にアドバイスできることなんです。これからブレイクしそうな人に「増長すると大変なことになるよ」と教えてあげられる。まあ、なかなか理解してもらえないのですが……。そういったことも含めて、今回の長谷川先生の著書には、一般人も参考にできるような芸能人の危機管理をめぐるエピソードがたくさん詰まっていますね。

(構成=呉琢磨)

長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
弁護士・ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、朝日新聞社の記者に。夜討ち朝駆けで多数の事件関係者に張り付く中で、当事者と一緒に悩む立場に身を置きたいと弁護士に転身。主な著書に、ベストセラーとなった『磯野家の相続』(すばる舎)の他、『家族内ドロボー』(光文社新書)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)などがある。

山田真哉(やまだ・しんや)
公認会計士・税理士。大阪大学文学部史学科卒。東進ハイスクールを退職後、公認会計士試験に合格し、2004年に独立。現在は日本最大級の芸能専門事務所である芸能文化会計財団で理事長を務める。著書に、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)、『女子大生会計士の事件簿』シリーズ(角川文庫)など。『美女と男子』(NHK)、『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ)といったドラマ監修も多数。