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宮台真司の『オン・ザ・ハイウェイ』評:ギリシャ悲劇の王道に連なる、86分間の密室劇

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【リアルサウンドより】

■経験論を否定する『オン・ザ・ハイウェイ』

 『バケモノの子』と同じく「父と子」が重要なモチーフになっている『オン・ザ・ハイウェイ』も、非常によくできた映画です。原題は『Locke』。人名がタイトルというのは珍しく、しかも人名としてありふれたものじゃないので、イギリスの経験論哲学者ジョン・ロックに絡めているのは明らかです。しかし、結論は経験論の否定なのです。

 日本人には馴染みがないでしょう。イギリス経験論はフランスを中心とする大陸合理論と対比されます。アプリオリ(経験に先立つもの)を認めず、アポステリオリ(経験を通じて獲得したもの)だけが信じられるとする立場です。法の世界では、ローマ法に発する法原則探求的な制定法主義とは異なる、先例踏襲的な判例法主義に対応します。

 ことほどさように、普遍原則より共通感覚(コモンセンス)を重視する立場です。これをさらに言い換えると、最初から正しいことや妥当なことが確定している選択はあり得ない。正しさや妥当性は、ソレを選択した後に、やがて汐のように次第に満ちてくる感覚──最初からどんな感覚になるかは決まっていない──が与えるものである、と。

 映画は「車中の男」というワンシチュエーション。冒頭、左ウインカーを出している車が、突然、右ウインカーを出してハイウェイに乗るところから始まる。そう、最初に選択があった。しかし、それが何を選択したことになっているのか全く分からない。やがて、本当は帰趨がどうとでもあり得たはずの選択の、帰趨が明らかになって行きます。

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