NEW
大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

絶好調アサヒビール、最大の脅威は自社のスーパードライ?業界トップ保守化のジレンマ

【この記事のキーワード】

, ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

アサヒビール「スーパードライ」
 国内ビール市場においては過去、長きにわたりキリンビールの「ラガービール」シェアトップの時代が続きましたが、現在ではアサヒビールの「スーパードライ」が逆転しています。スーパードライの躍進により、一時は「夕日ビール」とまで揶揄されたアサヒの経営状況は一変し、今や国内ビール系飲料市場シェアトップで営業利益も絶好調です。

 こうした好調な企業を対象にSWOT分析(企業の強みと弱み、企業を取り巻く環境における機会と脅威を分析する手法)を行えば、多くの強みと機会が抽出される一方、弱みや脅威に関する項目はなかなか見つかりません。一方、不調の企業を対象とすれば逆の結果となります。

 では、ビール業界のリーダーとなったアサヒビールの弱みと脅威には、どのようなものがあるのでしょうか。

アサヒビールを取り巻く脅威:キリンビールの覚悟

 

『「高く売る」戦略』(大崎孝徳/同文舘出版)
 脅威としてまず真っ先に思いつくのは、ライバルの存在です。近年でこそ「ザ・プレミアム・モルツ」の大ヒットによりサントリーホールディングスの存在がしばしばクローズアップされますが、筆者は長年にわたり首位の座を競いあったキリンに注目しています。

 キリンに興味を持つようになったきっかけは、極めて個人的な出来事です。大学のゼミナールで「マーケティングに携わる者はモノづくりもしっかりと勉強しなければならない」という口実のもと、毎年ビール工場見学を行っています。中部地区にはアサヒとキリンの工場があり、隔年で1社ずつ、昨年はキリンを訪問しました。

 ビール工場見学の締めくくりは出来立てビールの試飲となるわけですが、ついに「ラガービール」はなくなり「一番搾り」に一本化されていたことに大変驚きました。長年会社を支えてきた看板商品を引っ込めるには相当の覚悟が必要になるわけですが、キリンの本気度を目の当たりにし、「何かこれから新しいことが始まるのではないか」と感じました。

 その後、キリンは自社の商品戦略やマーケティングの強化を目的として、地ビールの最大手メーカーであるヤッホーブルーイングと資本業務提携をしています。この提携の主たる目的である「成熟した大手企業が若い成長企業から学ぶ」というスタンスは非常に好感が持てます。今年の5月に全国9工場それぞれで製造されたご当地限定「一番搾り」が計9種類発売されましたが、こうした取り組みはヤッホーからの学習が早々に実を結んだということかもしれません。

 キリンに限らず、これまでの常識では、同じ商品である以上いかに工場間の差をなくし、どこで飲んでも同じ味がする商品を生産するかというのが大手メーカーの基本的スタンスです。これに対して、地元の食文化や味の好みを知っている各工場の醸造長らが、それぞれ工夫した地元ならではのつくり手の顔が見えるビールをつくるという取り組みは、まさに逆転の発想で大変興味深いものです。こうした取り組みが功を奏し、今年上期はビールの販売量が23年ぶりに上向くという結果につながっています。