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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

消費者全体に煩雑さを強いる財務省の税還付案、さらなる増税や消費冷え込みの懸念

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト

 さらに内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて上記の政府案導入の効果を試算すると、17年度の経済成長率を最大で+0.03%程度押し上げるにとどまり、プラス効果は限定的となる。

 一方、消費税の逆進性対策として給付付き税額控除が効果的という議論がある。しかし、実際導入できれば逆進性解消の効果は高いが、どの程度を低所得とみなして給付するかの線引きが難しい。また、来年から導入されるマイナンバー制度は所得しか把握できず、貯蓄が把握できない。このため、所得は少なくても貯蓄の多い世帯まで優遇してしまう可能性があることにも注意が必要だ。

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低所得者給付にも課題あり

 以上をまとめると、軽減税率よりも逆進性緩和効果は高いが、消費落ち込み緩和効果が低いことからすれば、財務省の導入案には課題も多いと思われる。しかし、その財源捻出が物理的に困難となれば、逆進性緩和措置なしで消費税率を上げざるを得ないが、さすがに10%を超える消費増税時には効果的な逆進性対策が必要と考えられる。ただ、消費増税は財政健全化を進めるためのものであることからすれば、できるだけ減収は少ないほうが良い。

 なお、以前、2014年4月からの消費増税における逆進性対策として低所得者給付が打ち出された。しかし、これは住民税非課税世帯が対象となったことに問題がある。なぜなら、所得は少なくても貯蓄の多い世帯にまで給付してしまった可能性があるからである。したがって、逆進性対策として今後も住民税非課税世帯向け給付に頼るのは危険であろう。

 ただ、内閣府が公表している経済財政の中長期試算において、14年度の税収が2.3兆円も上振れしているにもかかわらず15年度の税収見通しが当初予算から変更されていないことや、税収弾性値が低めに見積もられていること等を勘案すれば、消費税率を10%まで上げなくても18年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支:年収に相当する税収から利払い費以外の政府支出を除いたもの)の赤字幅GDP比1%目標を達成できる可能性はあり、現時点ではさらなる消費増税が不可避な状況とまではいえない。

 消費増税を実施しても景気が落ち込めば、税収が増えるとは限らず、逆にギリシャのようにプライマリーバランスが黒字化しても景気が落ち込めば、財政の維持は困難になる。

 ただ、消費増税を実施してもコストが低く公平性の高い逆進性対策を併用すれば、その後の消費増税も実施しやすくなるが、逆に痛税感を緩和せずに国民の不満を高めてしまうと、その後の消費増税が政治的に困難になる。そういう意味でも、消費増税時の逆進性対策には慎重な対応が必要であると考えられる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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