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熊谷充晃「歴史の大誤解」

「妻は家庭を守るべき」「女性は控えめ」は、つくられたデタラメ?たった百年の幻想

文=熊谷充晃/歴史探究家
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「妻は家庭を守るべき」「女性は控えめ」は、つくられたデタラメ?たった百年の幻想の画像1明治時代の遊女と客の様子(「Wikipedia」より/さかおり)
 女性の社会進出および活用が声高に叫ばれるようになって久しい現代。理想的な日本女性を表現する「やまとなでしこ」という言葉はあまり聞かれなくなり、サッカー日本女子代表の愛称「なでしこジャパン」で耳にするぐらいだ。

 かつては女性を褒め称える時に使われた「良妻賢母」も、共働きが当たり前になり、「イクメン(育児に積極的な男性)」なる言葉が生み出された現代では、時代に即さない表現となりつつある。

 日本女性といえば、伝統的に「控えめであるべき」「おしとやかであるべき」「家庭を守るべき」という観念があった。しかし、そもそも日本女性は古来、貞淑でおとなしく、夫に従順な存在だったのだろうか。

「良妻賢母」は、女性に求められる、あるいは女性が目指すべき理想像を端的に示した言葉であり、日本伝統の女性観ともいえる。しかし、この思想は明治時代中期に生み出され、昭和の第二次世界大戦前にかけて、じっくり浸透していったものだ。つまり、せいぜい1世紀あまりという、比較的浅い歴史しかない。

 明治中期、貞淑に家庭を守る女性は「新時代を象徴する女性像」といわれた。中世から江戸時代にかけて、女性は少なくとも「働き手」としてカウントされる存在で、決して「家事専門」だったわけではない。時代劇でも、居酒屋などは今でいうホール業務を女性が務めているし、農村でも女性は何かしらの役割を与えられている。

 明治になると、近代化によって夫婦観や家族観が一変する。なかでも大きかったのは、「男女には分担すべき役割がある」という考え方が広まったことだ。そして、「家庭を守る」という役目に特化した女性像が誕生する。家庭をしっかり守り、夫を陰日なたになって支える。そのために「貞淑」「控えめ」といった美徳が生み出され、喧伝されていったのだ。

 もともと、こうした女性を必要としたのは上流階級だ。夫が高給取りであれば共働きの必要はないからであり、近代的な職務に邁進する夫に対して、「家庭を守る妻」というイメージが、プロパガンダ的に広められた。

 いつの時代も、庶民はセレブの生活に憧れるものだ。ただでさえ、国家主導で「良妻賢母が一番」という考え方が入り込んでくる時代、「良妻賢母が女性のかがみ」という美意識は全国に拡大していく。

雑誌が煽った「良妻賢母」

 ここで重要な存在を担ったのは、当時、新メディアの雄だった雑誌だ。婦人向け雑誌が続々と創刊され、一様に特集などで「良妻賢母になるために」といった記事を掲載した。

 そこでは、世間の理想とされる華族夫人、つまりセレブ女性の生活ぶりが細かく紹介され、「それを手本にしなさい」と書かれていた。

 世間全体が「良妻賢母」を賛美するようになると、誰もが「内助の功」に拍手喝采するようになる。結婚して家庭に入った女性は、それだけで「ワンランク上」と見なされた。

 ところで、貞淑な妻というと、「夫が帰宅した時に、玄関で三つ指をついてお出迎え」というイメージも強い。しかし、この作法も、実はもともと「はしたない」とされてきたものだ。

 それも道理で、女性としては社会的に一段低いポジションとされていた、吉原の遊女たちが使う作法だったからである。彼女たちは、豪奢な着物を身にまとい、着物のイメージに合わせて大型のかつらをかぶっていた。それは、重量感たっぷりで行動の自由を奪うほどのものだ。

 頭が重くなっているため、普通に首をかしげてあいさつしようものなら、おでこを床に激しく打ちつけてしまう。そこで考案されたのが、少しは自由がきく両腕を指先までピンと伸ばして床につけ、ゆったりと上半身を前傾させるスタイルだ。これが、「三つ指をついてお出迎え」の起源なのである。
(文=熊谷充晃/歴史探究家)

熊谷充晃/歴史探究家

熊谷充晃/歴史探究家

1970 年神奈川県生まれ。フリーライター。歴史探究家。近著は『教科書には載っていない! 戦争の発明』(彩図社)、『幕末明治動乱「文」の時代の女たち』(双葉社)、『テレビではいまだに言えない昭和・明治の「真実」』(遊タイム出版)、『世界文化遺産富岡製糸場と明治のニッポン』(WAVE出版)。週刊誌専属記者などを経て2005 年から著述家に。歴史全般のほか社会時事、スポーツ、芸能、ペットなど、ジャンルにより複数のペンネームを使い分けて活動し、自著は現在30 冊近く。また、企業の公式サイトやフリーペーパーなど多岐にわたるメディアで執筆している。

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