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雨宮寛二「新・IT革命」

アップル、深刻な大企業病か 他社の後追いと従来商品の改善、失われる革新性

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Apple Store 銀座(「Wikipedia」より/PRiMENON)
 アップルが苦しんでいる――。

 オペレーションのプロであるティム・クックCEO(最高経営責任者)の下で、革新性の追求から従来製品の改良・改善にシフトして久しいアップルは、いよいよ重度の大企業病に陥ってしまった。9月9日に行われたアップルの新製品カンファレンスで発表されたiPad Proにその兆候が読み取れる。

 もはや成熟市場に達したタブレット市場で生き残りを図るために、アップルは革新的な機能やツールの開発ではなく、マーケティングを重視した改良・改善をiPad Proの方向性として選択した。

『アップル、アマゾン、グーグルのイノベーション戦略』(雨宮寛二/エヌティティ出版)
 そのひとつの方向性が大画面化である。従来比3割大となる12.9インチの画面を実現して、これまで重視してこなかった法人市場を視野に入れた。これはタブレットとしての独自性の追求ではなく、タブレットをパソコンの領域に近づけて、法人需要の乗り換えを図ったものにすぎない。

 一方で、iPadをパソコンの領域に近づけることは、アップル自身の身を削ることにもつながる。今年の4月に発売された12インチのMacBookと明らかに競合するからである。

 もうひとつの方向性は、ハードウェアキーボード対応(Smart Keyboard)である。マグネットによるiPadスタンドとキーボードを1枚にして実現している点でアップルとしての独自性はかろうじて保たれてはいるものの、マイクロソフトのsurfaceシリーズの後追いである感は否めない。ちょうど、iPhone6 plusがサムスンのGALAXY Noteを意識したガジェットであるように―――。

「革新性」から遠ざかる


 大画面化にしても、ハードウェアキーボード対応にしても、アップルとしては、市場でのマーケティングを十分に積み重ねた結果、決断した方向性であるに違いない。だが、こうしたいわゆる「売るための」数字の積み重ねによる経営判断は、アップルをますます技術の進歩を追求する方向に追いやることになる。そうなると、アップルはその代名詞とも言える「革新性」からさらに遠ざかることになろう。

 確かにマーケティングは、従来製品の改良や改善には十分な威力を発揮する。企業にしてみれば、収益拡大を図るために必要な手段であり、どの企業でも取り入れている。なかには、独自の分析手法を考案して収益を伸ばしている企業もある。

 だが、画期的な製品やサービスを創り出す上では大きな足かせとなる。だとすれば、当然ながら、かつて世界中でひときわ革新性を放っていたアップルが追求するのは、こうした方向性ではなかろう。

 アップルの新製品カンファレンスで、iPad Proをお披露目するクックCEOは満面の笑みを浮かべていた。だが、その微笑みとは裏腹に、アップルの将来を占う革新性の道筋は見えてこない。アップルはこのまま、大企業が陥る従来製品の連続的変化に傾注していく道を進むのであろうか。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)