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なぜブリヂストン社員は社長室で自殺したのか

構成=吉田典史/ジャーナリスト
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政治は底辺の力を軽く見ている

 草の根の力が大切であることは理解できるが、政府が主導し、経済成長を引っ張らないと、経済の再建は難しいようにも思える。しかし設楽氏は、「その考えでは、再建はできない。もっと労働者の自由闊達な勤勉さを信じることが大切」と語る。

「今の自公政権にしろ、民社国の政権にしろ、草の根の力を信じていない。ここ数十年、日本の政権は、底辺の力を軽く見ている。これは、近代や江戸時代をどうとらえるかといった問題でもあると思う。

 もともと日本人には、謹厳実直に働く力がある。為政者は、それを信じるべきなのだ。禁欲的緊縮財政ではなく、自由闊達な勤勉さが大切なのだ。すでに江戸時代の庶民の生活には、その気風が満ちていた。ところが、江戸幕府は人々を信じることができなかった。だから、バカな緊縮財政などを行っていた。そんなことをしなくとも、飢饉がきたら、それを乗り越える力を当時の人々は持っていたのだ。幕府がおかしなことをするから、逆効果となり、一揆などが起きていた。

 近代になってからも、日本人の勤勉さは変わらない。それにもかかわらず、政府は禁欲的緊縮財政をしてきた。これが、状況を一層悪化させている。私は、日本人の自由闊達な勤勉さを信じている。この勤勉という言葉が好きだ。民主党や社民党、共産党などは、国民を信じて政策をつくるべきなのだ」

サラリーマンは、抗議をすることも、考えることも奪われている

 為政者や経済界のリーダーたちは、自由闊達な勤勉さを信じていないのかもしれない。少なくとも、会社の職場では、そんな勤勉さは否定され、コントロールされた見せかけの勤勉さが浸透している。

 設楽氏は、「サラリーマンは会社から自由闊達な勤勉さを奪われ、なんでも言いなりになるように洗脳されている」と指摘する。

 その一例として、1999年、ブリヂストンの社員が社長室で自殺した事件を挙げる。報道によると、同社のリストラに抗議しての自殺だったという。1週間後、設楽氏たち150人ほどがブリヂストン本社前で抗議活動を行った。通り過ぎるサラリーマンやOL、学生たちが真剣に話を聞いてくれたという。

「『自決を強いたものはなんだったか、ブリヂストンは考えろ!』と演説した。私は、男性社員が自殺したことが残念だった。我々と一緒に闘うことができたのではないかと思った。それが、今振り返っても悔しい。我々のところへ来たら、死なせずに済んだのに。サラリーマン労働者たちは、抗議をすることも、考えることも奪われているのだ」

 そして、「会社員である以上、基本的には業務命令に従い、勤勉に仕事をするべき」と前置きし、こう続ける。

「『この業務命令はおかしい』『あの上司の言動はおかしい』『どのタイミングで言えばいいのか』といったことは、絶えず考えないといけない。その駆け引きが大切。それができないと、なめられる。それは日々のやりとりで学ぶものなのだ。ところが、会社は考えさせないようにしてくる。

 闘いを経験すると、駆け引きがわかる。たとえば、抗議をしてチラシをまく。すると、警備員や警察がくる。そこで何を言うか、どうするか、その後の団交にどう臨むか、そんなことを考えながら闘っていく。この繰り返しで闘いに慣れて、強くなっていく。そんなトレーニングをするためにユニオンがあるのだし、我々がいる。今朝も、私は労働相談に来た会社員を叱った。『俺に反論をしろよ! 社畜になるな!』と怒鳴った。すると、「はい、はい」と言いなりになる。そんな人を見ると妙に悲しくなる。

 もちろん、はじめから私のようにはなれないと思う。私も50年前は、こうではなかった。闘いを繰り返すうちに、その緊張のやりとりの中で鍛えられて、したたかになっていくのだと思う」
(構成=吉田典史/ジャーナリスト)

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