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町田徹「見たくない日本的現実」

消費税軽減税率、「骨抜き」の公算 国民負担軽減は限定的、一部企業の「益税」放置か

文=町田徹/経済ジャーナリスト

期待外れの軽減税率導入

 あわせて気掛かりなのが、宮沢氏の「17年4月に事業者に大きな混乱をさせてはいけない」という発言である。欧米型の本格的なインボイス(適用税率と税額が記載された書類)、公明党が主張している簡易型のインボイスのいずれについても、「17年4月から義務付けることは非常に難しい」と述べたのだ。そもそもインボイスは、国民(消費者)が支払った消費税がきちんと国庫に納入されるようにするための担保である。標準税率と軽減税率の差が悪用されるのを防ぐため、当然導入すべきものだ。与党として必要な手も打たずに、本気で本格的な軽減税率を導入する気があるのか、疑わざるを得ない発言だ。

 その後の公明党の斉藤鉄夫税調会長との協議などを通じて、宮沢氏の描く青写真がはっきり浮かび上がってきた。整理すると、消費増税分の一部を財源として、医療や介護、保育の世帯ごとの自己負担総額に上限を設けるはずだった新制度「総合合算制度」の導入を見送って、年間4000億円の財源を確保し、これを軽減税率の予算に充てるというのである。

 これでは、財務省や公明党が提案していた「酒類を除く飲食料品」を軽減税率の対象にすることは難しい。「酒類を除く飲食料品」を対象にすると、1兆2600億円程度の財源が必要になるからだ。4000億円で賄えるのは、3400億円程度の財源が必要とされる精米、刺し身、精肉などの「生鮮食品」ぐらいである。

 公明党は、対象品目を拡大するため、高額所得者への課税強化やたばこ増税など消費増税分とは別に財源を手当てすることを提案したが、宮沢氏は「税と社会保障の一体改革の枠内で解決すべきだ。それが自民党税調の共通認識だ」と述べ、あくまでも財源を消費増税の枠内で確保すべきだと主張しているという。宮沢氏は、軽減税率を「小さく生んで大きく育てることもできる」としているが、われわれ納税者から見れば、痛税感の解消には程遠い、期待外れの軽減税率導入に終わる可能性が高まっている。

「お上の論理」

 中国経済バブル崩壊の影響が次第に深刻化するとみられる中で、そもそも17年4月に消費増税が可能かは大きな疑問だ。その疑問を横に置いても、インボイス導入の見送りは禍根を残すことになるだろう。本来、事業者は顧客から受け取った消費税から仕入れで支払った消費税を差し引いて、残りを納税する義務がある。が、その特例として、売上高が1000万円以下の事業者はこの義務を免除されているほか、「簡易課税」でも“益税”が生じるケースがある。合法的に、顧客から預かった消費税を懐に入れることが認められているのだ。

町田徹/経済ジャーナリスト

町田徹/経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。
1960年大阪生まれ。
神戸商科大学(現・兵庫県立大学)卒業。日本経済新聞社に入社。
米ペンシルべニア大学ウォートンスクールに社費留学。
雑誌編集者を経て独立。
2014年~2020年、株式会社ゆうちょ銀行社外取締役。
2019年~ 吉本興業株式会社経営アドバイザリー委員
町田徹 公式サイト

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