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江川紹子の「事件ウオッチ」第40回

【東住吉事件】で再審開始決定ーー有罪ありきで科学鑑定を無視した裁判所の重すぎる“罪”

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せめて最高裁が科学鑑定の結果に真剣に向き合っていれば、もっと早く再審無罪への扉が開いていたはずだーー。(写真は最高裁。Wikipediaより)


 大阪市東住吉区で1995年に小学6年生の女児が焼死した火災で、実の母親である青木恵子さんと、当時同居していた朴龍晧さんが殺人、現住建造物放火などで無期懲役となった「東住吉事件」。2人の再審請求を審理していた大阪高裁(米山正明裁判長、角谷比呂美裁判官、船戸宏之裁判官)は、大阪地裁(水島和男裁判長、和田将紀裁判官、長峰志織裁判官)の再審開始決定を支持し、検察側の即時抗告を棄却した。

“無罪の証明”のために費やされたコスト

 決定は、科学鑑定に基づく徹底した緻密な審理で、「自然発火の可能性がある」として判断したが、その分、地裁決定から3年半もの時間を要することになった。2人の身柄は釈放され、ようやく再審無罪への扉が開いた格好だが、逮捕からすでに20年。事件当時8歳だった青木さんの長男は、母親の釈放直前に29歳になった。母を奪われた子ども時代は戻ってこない。また、弁護側は確定審段階から、“無罪の証明”のためにいくつもの実験や専門家による鑑定を重ねてきた。それにかかった費用は1,000万円を下らないだろう。なぜ、こんなにも長い時間と多額の経費を要しているのだろうか。

 原審判決は、2人は女児にかけた保険金を詐取しようと企て、青木さんが風呂に入るよう勧め、朴さんが風呂場に隣接する車庫で車から抜き取ったガソリンをにまいて、ライターで着火し、自宅を全焼させて殺害した、と認定していた。2人と事件を結びつける客観的な証拠や目撃証言はなく、すべて捜査段階の自白に基づいた事実認定だった。

 これに対し、弁護側は再審請求審で、現場を再現して燃焼実験を行った。土地を借り、現場と同じ間取り家屋内ガレージをプレハブで建て、同じ車や風呂釜・浴槽・煙突を準備するなど、できる限り現場を忠実に再現したセットだった。ただし、危険防止のため、ガソリンをまくのは、リモコン操作で。関係者によれば、この実験には500万円もの費用を要した、という。

 やってみると、ガソリンをまき終わる前に、車庫に面している風呂釜の種火が引火し、瞬時に激しい勢いで大きな炎が立ち上がった。車庫内はすぐさま火の海となり、車は炎に包まれた。

 パンツ一丁でその場にいたはずの朴さんがやけどを負わなかったのは不自然なうえ、放火の後にいったん室内に戻り、再び車庫を通って外に出たという自白とも矛盾する。さらに、火事を目撃した人は、初期には炎は低かったと証言しており、そうした客観的状況とも食い違う。再審請求審で大阪地裁は、この実験結果を重視して、自白の信用性に疑問が生じたとして、再審開始を決めた。

 その後、検察側も再現実験を行った。しかし、条件を変えて3度繰り返したが、いずれもガソリンをまき終わる前に引火し、ライターで点火するまでもなく、激しい燃焼と大量の黒煙が発生した。自白通りに進行することは一度もなく、すべて自然発火した。検察側の実験は、弁護側主張の正しさを裏付ける結果となった。

(弁護側の実験映像はこちら
(検察側の実験映像はこちら