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江川紹子の「事件ウオッチ」第40回

【東住吉事件】で再審開始決定ーー有罪ありきで科学鑑定を無視した裁判所の重すぎる“罪”

文=江川紹子/ジャーナリスト
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有罪判決にしがみついた検察

 この検察側実験が行われたのは、2013年5月。これだけはっきりと結果が出たからには、この時点で、検察は即時抗告を取り下げ、大阪地裁の決定に従って、再審開始に応じるべきだった。そうすれば、今頃は、再審で無罪判決が出ていたはずだ。再審請求審が長引いたのは、検察の未練がましさ、往生際の悪さが最大の原因、と言うべきだろう。

 検察は、大阪地検特捜部で証拠改ざんの不祥事が明るみに出た後に、倫理規定「検察の理念」を自ら策定した。そこには、「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない」「無実の者を罰し、あるいは、真犯人を逃して処罰を免れさせることにならないよう、知力を尽くして、事案の真相解明に取り組む」という文言がある。

 しかし、東住吉事件での態度を見ていると、有罪判決にしがみつくという、検察の姿勢はあまり変わっていないのではないか、と思えてならない。

 ただ、問題は検察だけにあるわけではない。それ以上に深刻なのは、裁判所の姿勢だ。

 弁護側は、原審一審段階から、火災は自然発火による事故だったと主張していた。PL(製造物責任)訴訟などで調査を手がける技術士が同趣旨の鑑定書を提出し、証言にも立った。そこでは、自動車のタンク内には規定量を超えたガソリンが入っていたことなどを挙げ、ガソリン蒸気が漏れて起きた自然発火の可能性が示されるとともに、「10リットルものガソリンをまいて点火したら、爆発的に燃焼し、自らが危険にさらされる」という指摘もあった。

 警察の科学捜査研究所が行った燃焼実験でも、「ガソリンの着火直後から、炎が大きく立ち上がり、同時に黒煙が多量に発生。炎は7秒後には一気に天井の高さを超える状態になった」としている。これは夫の自白と矛盾し、火災の目撃者の証言とも食い違う。

 ところが、青木さんを裁いた大阪地裁(毛利晴光裁判長)は「実験は忠実な再現とはいい難い」からと、そこから浮かんだ矛盾や疑問を一切無視し、「自然発火の可能性は極めて低い」と認定。朴さんへの判決(川合昌幸裁判長)も同様だった。

 控訴審に提出された、科捜研による事件の再現実験でも、点火直後に炎が高く上がり黒煙が発生しているが、裁判所はこれも「さほど重視することはできない」(白井万久裁判長)と軽く扱っている。

 控訴審では弁護側の要請で鑑定を行った石油化学の専門家が、気化したガソリンによって制御不可能な爆発的燃焼が起きるので、そばにいた朴さんが大やけどを負わないはずがない――と指摘したが、裁判所はこれも「たやすく採用することはできない」として退けた。

 最高裁の段階では、弁護側が燃焼学を専門とする大学教授に依頼をして実験を行い、車の給油口から漏れて気化したガソリンに、風呂釜の種火が引火して自然発火するプロセスを実証した。このようにして起きた火災の状況は、目撃証言などとも合致した。最高裁は、この時点で、高裁に差し戻すなどして、再審請求審でなされたような、厳密な検討を行うようにすべきだったろう。

 ところが、最高裁(裁判官・上田豊三、藤田宙靖、堀寵幸男、那須弘平)は、この鑑定を一顧だにせず、判決では一言も触れないまま、上告棄却とした。

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