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クックパッド、不可解すぎる内紛騒動…創業者と現社長、激しい対立の「狙い」

文=伊藤歩/金融ジャーナリスト
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クックパッド、不可解すぎる内紛騒動…創業者と現社長、激しい対立の「狙い」の画像1サイト「クックパッド」

 創業者と自身が指名した後継者の間で対立が生じ、プロキシーファイト(委任状争奪戦)勃発かとみられていたクックパッド

 そのクックパッドが2月5日、2015年12月期の決算発表と同時に、3月下旬開催予定の定時株主総会に提出する取締役選任議案を創業者側と一本化することで合意したとするリリースを発表した。人選はこれから指名委員会で検討するとしているが、これでプロキシーファイトの可能性はほぼなくなったことになる。

 創業者の佐野陽光氏はクックパッド株式の43.6%を握る大株主。一方、現社長の穐田誉輝氏の保有割合は14.7%。最初からケンカにならないほど保有割合に差があったが、このケンカには疑問に感じられる点が多いのだ。

佐野氏の主張

 クックパッドはユーザー登録型レシピサイトで断トツの国内シェアを誇り、公表されたばかりの15年12月期の年商は147億円で営業利益は65億円。前期が決算期変更に伴う8カ月決算だったので単純な比較はできないが、12カ月に換算すると売上高は前期の91億円から6割増、営業利益は65%増だという。

 主な増収効果として会社側が挙げているのが、14年8月に買収したセレクチュアーと、15年5月に買収した結婚式場選びの口コミサイト運営会社みんなのウェディング(東証マザーズ上場)。年商はセレクチュアーが14億円(13年7月期)、みんなのウェディングが18億円(15年9月期)なので、15年12月期にはセレクチュアーの1年分と、みんなのウェディングの7カ月分、合計で約24億円程度が乗っている計算になる。逆にいえば、56億円の増収分のうち、買収による連結子会社増収効果は24億円で、残り32億円はクックパッドの従来からの実力ということになる。

 営業利益はセレクチュアーが5942万円、みんなのウェディングが1億6900万円なので、クックパッドの連結営業利益にはほとんど貢献していない。

 クックパッド創業者の佐野氏は海外で育った帰国子女。慶應義塾大学出身で、大学卒業後すぐにクックパッドを設立した。天才起業家との誉高い人物である。一方、今回佐野氏と対立したかにみえた現社長の穐田氏は大卒後、ベンチャーキャピタルの日本合同ファイナンスに入社。独立してベンチャー投資会社を設立、カカクコムの社長を務めたこともある。07年からクックパッドの社外取締役を務め、佐野氏から後継指名を受けて社長に就任したのは12年。

 両者の対立が表面化したのは先月19日。佐野氏が経営陣の入れ替えを求める株主提案を提出した、という内容のリリースをクックパッドが公表した。同社側は佐野氏から送付された提案書をそのままリリースに掲載。佐野氏は、同社が海外展開に経営資源を割かず、料理とは関係の薄い事業を拡大していることに危機感を持ったとしている。

みんなのウェディング買収に賛同していた佐野氏

 クックパッドは過去、積極的なM&A(合併・買収)を繰り返してきているが、この2年ほどの買い物といえば、セレクチュアー、NetSila、リアルワールド、みんなのウェディングなど。セレクチュアーはインテリア雑貨などのECサイト運営、リアルワールドはクラウドソーシング、NetSilaはレバノンのレシピサイト運営会社。

 佐野氏はみんなのウェディング買収を非難しているのか、という質問に対し、クックパッドは「そういう個別の次元の話ではないようだ」としているが、佐野氏がいまさらこの買収を批判しているというのは考えにくい。なぜなら、佐野氏は今もクックパッドの筆頭株主であり、取締役でもある。みんなのウェディングの株式(発行済みの26.8%)はTOB(公開買い付け)を実施して取得しているが、そのTOBを決議した取締役会で佐野氏は賛同しているのだ。

 みんなのウェディングは、ディー・エヌ・エーの社内ベンチャーとして誕生している。ベンチャーキャピタルのグロービスが資金支援をし、14年3月に東証マザーズに上場している。しかし上場早々、最初の決算で業績予想を下方修正したうえ、上場からわずか8カ月後に子会社で不正経理が発覚。金額はわずか1200万円だったが、創業社長と担当取締役のクビが飛んだ。

 株価は公開初値の3560円どころか、公開価格2800円まで割り込み、15年に入ると1000円も割る展開に。そこに15年4月、クックパッドとの業務資本提携が浮上。クックパッドが1株1400円で株を公開買い付けすることが公表されると、即座に株価は1000円台を回復した。

 この時点のクックパッド社長は穐田氏だが、実は穐田氏は上場前からみんなのウェディングの大株主だった。クックパッドがTOBを決めた時点でも13.1%を保有。グロービス、ディー・エヌ・エーに次ぐ第三位株主だった。明確な利益相反になるため、穐田氏はクックパッドにおけるTOB実施を決める取締役会決議に参加していない。

佐野氏側の取締役候補の顔ぶれ

 さらに興味深いのは、佐野氏が推す取締役候補者の顔ぶれだ。候補者は佐野氏本人も含めて全部で8人。佐野氏は今も取締役なので再任提案だが、まったくの新任となる他の7人は以下のとおり。

 岩田林平氏(経済産業省おもてなし規格認証に関する検討会委員)
 葉玉匡美氏(弁護士)
 古川亨氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
 出口恭子氏(医療法人社団色空会お茶の水整形外科機能リハビリテーションクリニック理事COO)
 北川徹氏(スターバックスコーヒージャパン執行役員)
 柳澤大輔氏(株式会社カヤックCEO)
 藤井宏一郎氏(マカイラ株式会社代表)

 古川氏は元マイクロソフト日本法人社長。柳澤氏と藤井氏はベンチャー経営者、岩田氏はマッキンゼー出身の経営コンサルタントで専門はマーケティング。ここまでは違和感のない人選だが、それ以外にファイナンス系の専門家が3人も入っている。

 出口氏はベイン・アンド・カンパニーを振り出しに、GEプラスチックス、ディズニーストア、ベルシステム24などを渡り歩き、GEとベルシステムでは財務担当役員だった。弁護士の葉玉氏は元検事で法務省出向時代、05年に誕生した会社法の立法担当者だった。この会社法で解禁になったのがスクイーズアウト(少数株主の排除)。TOBなどで議決権の3分の2を握った買収者は、残りの株主から本人の意思とは無関係に保有株を強制買い取りできるようになり、MBO(経営陣による自社株買い)が広がった。そして北川氏は、14年にスターバックスが非公開化した際の実務担当者である。

 つまり、スクイーズアウト制度の立法担当者と実務家が揃って取締役候補者に上がっているのだ。こうなると佐野氏はMBOを計画しているのではないかと見られてもおかしくない。

 クックパッドはキャッシュリッチ企業である。2億円強の借金はあるが、総資産の半分に当たる130億円もの現預金を持っているので、実質無借金。この額は年商に匹敵する額だ。これだけの優良企業なら、ファンドも銀行も買収資金を出すだろう。

 唯一のネックは、クックパッドの株価だ。この2週間で3割も株価は下がったが、それでも時価総額はまだ1500億円を超えており、株価純資産倍率は7倍超。まだまだ十分に高い。さらにプレミアムを乗せてTOBとなると、かなり割高になる。

 とはいえ、佐野氏はすでに43.6%の株を持っているので、残り56.4%を買うのに必要な金額は800~1000億円程度で済む。買収資金の大半をローンで調達し、それを買収対象会社にツケ回すのがMBOにおける一般的な手法なので、やり方次第では不可能ではない。

 筆者は佐野氏に真意を問うべく、代理人の弁護士を通じ取材を申し込んだが、応じられなかった。
(文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)

伊藤歩/金融ジャーナリスト

伊藤歩/金融ジャーナリスト

ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計。主な著書は『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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