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雨宮寛二「新・IT革命」

iPhone、粗利率7割死守のため最新版でスペックダウンか…販売不調で戦略転換

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アップルのロゴ
 米アップルが、今春にも4インチディスプレイの小型スマートフォン(スマホ)「iPhone 5se(special edition)」を発売する計画である。

 従来機とは別立ての機種の販売といえば、2013年にリリースした「iPhone 5c」が想起されるが、今回の「5se」はデザイン面ではこの「5c」に類似するものの、スペック面では大きく異なり一世代前のものとほぼ同じで、部材は最新モデルと同等のものを採用している点を特徴としている。

 たとえば、チップやプロセッサーに関しては、「6s」の一世代前の「A8」や「M8」が用いられている。その一方で、「Bluetooth 4.2」や「VoLTE」「802.11ac WiFi」さらには「Live Photos」は、「6s」と同等の最新スペックが使われている。

『アップル、アマゾン、グーグルのイノベーション戦略』(雨宮寛二/エヌティティ出版)
 それでは、なぜアップルは今回の「5se」の開発戦略を「5c」から修正したのであろうか。「5c」では、販売が計画通りの実績を残せなかった。その一番の敗因は、同時期にリリースされた最新モデル「5s」の廉価版になり得なかったことにある。

 すなわち、「5c」では従来機である「5s」よりもスペックを一世代前の「5」に落としたものの、販売価格を極端に下げることができなかった。その結果、当時1万円前後のスマホが飛ぶように売れていた中国市場では、「5c」は消費者の購買レンジに入らず敬遠されることとなった。

 低価格iPhoneの投入は、市場における製品単価の下落につながり、これまで築き上げてきたアップルの利益率の低下を招く恐れがある。同社にしてみれば、「5se」でも極端に販売価格を下げることはできない。そのため、従来機にあまり見劣りしないスペックを保ちつつ、価格を従来機に近いレンジに維持する戦略を採らざるを得ない。

勢いに陰り


 iPhoneの粗利率は、これまで上昇傾向にあった。初代iPhone(8GBモデル)の53%から、今や70%を超えるまでになった。高い利益率の維持こそがアップルの生命線である。アップルは圧倒的なブランド価値を背景に、世界のスマホ市場での利益シェアが70%を超え、一人勝ちという状態をつくり出してきた。

 だが、その勢いにも陰りが見え始めている。アップルが先月発表した2015年10~12月期決算では、iPhoneの販売台数は7,477万台で前年同期に比べ0.4%増にとどまった。07年に初代iPhoneをリリースして以来、最も低い伸びとなった。明らかにアップルのスマホ販売は踊り場にさしかかっている。

 今やiPhoneの売り上げはアップル全体の6割を超える。成長性の鍵は新興国市場の攻略にあるとして多くの競合企業がしのぎを削っている。果たして「5se」は、こうした競合を抑えて、新興国市場を中心に利用者を増やし、販売の伸び悩みを補う救世主になり得るのであろうか。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)