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宮永博史「世界一わかりやすいビジネスの教科書」

鹿と列車の衝突事故、年間5千件…激減させる画期的方法を、なぜ素人が開発できた?

文=宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授
鹿と列車の衝突事故、年間5千件…激減させる画期的方法を、なぜ素人が開発できた?の画像1「Thinkstock」より

 北米の高速道路などを運転していると、「Deer Crossing」という標識を目にすることがある。「(道路を横断する)鹿に注意」という意味だが、本当に鹿が道路を横断するのだろうかとつい疑いたくなる。鹿は動物園に行って見るもの、というのが日本の常識だと思っていたら、最近はどうも事情が違うようだ。

鹿の急増が引き起こす

 日本国内で鹿と列車が衝突する事故は、年間どのくらいあるのか――。

 日鐵住金建材によると、なんと年間約5000件もの衝突事故が起きているというから驚きだ。今日も日本のどこかで10件以上も衝突事故が起こっているのかと思うと、尋常ではない多さだ。鹿の数はこの20年で20倍に増えているという。鹿や猪などジビエ料理が最近話題になっているが、頭数が増えていることがその背景にあるのだろう。

 鹿が増加した理由はさまざまであろうが、鹿を保護することで鹿が増え、その結果農作物への被害や列車との衝突事故が増えるとなると、前回の本連載記事で取り上げた地下水問題と同じように環境問題の難しさが見えてくる。
 

なぜ鹿は線路に侵入するのか

 
 鹿が増えても線路内に侵入しなければ衝突事故は起こらない。当然、鹿を線路に侵入させないように柵が設けられているが、それでも事故が絶えない。なぜ鹿は線路に侵入するのだろうか。柵を扱っている日鐵住金建材の梶村典彦氏は、この問題をなんとか解決しようと立ち上がった。

 梶村氏は「鹿の行動パターンを調べないと新しいものは生まれない」と、鹿が多く生息する岐阜県関ケ原町に通い詰めた。100回以上は行動観察を行ったというが、鹿の行動を観察しているうちにある行動に気づく。鹿が線路をなめているのだ。

 そこで「鹿は鉄分を求めて線路に入る」という仮説を立て、鉄の専門家である梶村氏が生物学者の向こうを張って鹿の生態について学会発表まで行っている。生物学者にも長年わかっていなかった理由が、日鐵住金建材という一見生物とは関係なさそうな企業によって解明されたのだから愉快だ。
 

鹿被害を減らす製品化

 生物学者であればここでおしまいだろうが、梶村氏はどうしたら鹿を線路から遠ざけることができるか、そこから本来の製品開発に挑む。岐阜や北海道で実験を積み重ね、ついに商品化にこぎつけたのである。

 問題を解決するには、鹿を線路に近づけなければよい。あるいは、線路に入ってしまった鹿を逃げやすくすることだ。梶村氏は、線路脇に立てる柵の角度を変えることによって解決した。

宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授

宮永博史/東京理科大学大学院MOT<技術経営>専攻教授

東京理科大学大学院
経営学研究科 技術経営(MOT)専攻教授。東京大学工学部・MIT大学院修了。NTT、AT&T、SRI、デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)を経て2004年より現職。主な著書に『ダントツ企業』『顧客創造実践講座』『世界一わかりやすいマーケティングの教科書』『幸運と不運には法則がある』『理系の企画力!』『技術を武器にする経営』(共著)、『全員が一流をめざす経営』(共著)、『成功者の絶対法則 セレンディピティ』などがある。

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