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片山修「ずたぶくろ経営論」

震災で壊滅の日産工場、社員を奮い立たせたゴーン社長の「情と理」経営…1カ月で復旧

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

 全国の日産工場から保全マンがいわき工場に集合した。系列の部品メーカーからも保全マンが駆けつけた。その数は、多いときには400人を超えた。復旧作業は徹夜で続けられた。

 ゴーンが復旧作業を急ぐいわき工場を訪れたのは、震災から18日目の3月29日である。「現場にいきたい」といい続けてきたゴーンの思いは、ようやく遂げられた。

 工場に到着したゴーンは、従業員の熱烈な歓迎で迎えられた。ゴーンは、工場の現状や復旧作業について1時間ほどの説明を受けた後、現場の従業員を激励して歩いた。まだガレキが散乱する工場内をまわり、従業員と次々と握手を交わした。ゴーンは何度もいった。

「よくやった!」

 彼は、いわき工場の従業員を前に、重大発表をした。工場の地盤沈下や設備のずれなどの補修、補強に対する30億円の投資を約束したのだ。

「この工場は必ず残す。いわきからは去らない」

 ゴーンの言葉に、従業員はどれだけ奮い立たされたかわからなかった。ゴーンは、自著『ルネッサンス 再生への挑戦』(ダイヤモンド社)の中で、こう語っている。

「私の経験では、企業の持つ、あるいは育むべき最も大切なものはモチベーションである」

 ゴーンは、有無をいわさず人を引っ張っていくような支配型のリーダーシップの持ち主と誤解されがちだが、実は、そうではない。彼は、積極的に現場に出かける。現場重視を貫く。工場や販売店などあらゆる現場に出向いて従業員の士気を高める。現にいわき工場をあとにしたゴーンは、いわき市庁舎を訪れ、その後、日産販売店を回った。「情と理」の絶妙な組み合わせで組織を引っ張っていくのが、ゴーン流のリーダーシップである。

 小沢は、ゴーンに約束した。

「最短でフル稼働の状態を整えます。全面復旧したときは、再び、ゴーンさんを工場に招待します」

約1カ月で生産再開

 いわき工場は、震災から約1カ月後の4月18日に、一部生産を再開した。

 ゴーンは5月17日、全面復旧を果たしたいわき工場に、約束通り再びやってきた。その日、ゴーンは工場従業員の前に立ち、晴れやかにスピーチを行った。かたわらには、工場長の小沢、生産担当常務の櫻井亮の姿があった。

「いわきのみなさんは、強い決意と勇気とチームワークで、見事な働きを見せてくれました。また、ほかの多くの工場の仲間がいわき工場に力を貸してくれたことを誇りに思います。むろん、いわき工場の功績ではありますが、横浜工場、ジヤトコ、栃木工場をはじめとする他拠点の応援が復旧を支えました。さまざまな工場の大勢の人々の協力があったことに心打たれます」

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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