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片山修「ずたぶくろ経営論」

震災、知られざる全自動車メーカー一致団結の奇跡の物語…日産2トップの離れ技

文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

「近隣の工場の社長さんには、私が直接電話をして、一緒に復旧できるように働きかけます」

 工場の復旧は、いわき市の復興のカギを握る。工場の稼働は、いわき市の雇用を維持するための絶対条件といってよかった。

日産がそこまでいってくれるのは、非常にありがたい。どこかが動いてくれなければ、われわれも動けませんから。ぜひとも、復旧に入ってほしい。市としても、各企業が復旧できるように協力していきたい」

 市長の渡辺も、支援を力強く約束した。

 有言実行。志賀は、小名浜臨海工業団地に工場を構える企業に次々と電話して、工場再開を呼びかけた。かくして、いわき工場の復旧の最大の障害は、志賀の危機突破大作戦によって、外された。

 その後、4月11日、震度6弱の大規模な余震に襲われ、復旧工事が振り出しに戻るなど、苦難に直面する。難問、試練を乗り越えるたびに、いわき工場はたくましく成長していった。

ルネサスを救え

 このほか、志賀には、自工会トップとして、取り組まなければならない重大な仕事があった。東日本大震災で、日本の自動車メーカーの生命線であるサプライチェーンが寸断された。部品の供給がストップすれば、日本はもとより、世界中の自動車メーカーは生産ストップに追いやられる。

 とりわけ世界を震撼させたのは、ルネサスエレクトロニクスの被災だ。ルネサスはクルマの神経を司る自動車制御用マイコンで世界シェア3割、カーナビゲーション向けシステムLSIで同6割を占める。当初、復旧に半年以上かかるといわれた。かりにも、ルネサスの被災のせいで世界中の自動車メーカーが半年間にわたって生産をストップさせれば、日本の「モノづくり神話」の崩壊を意味する。日本の自動車産業は、瀬戸際に立たされたといえる。志賀がもっとも恐れた事態である。

 この最大のピンチに対して、どのような行動を取るべきか。志賀は、危機感知のアンテナをフル回転させる。そんな折、トヨタ社長の豊田章男から志賀に電話がかかってきた。

「ルネサスの復旧をみんなで一緒にやりましょう。志賀さん、日立の中西社長(当時)に頼んでくれませんか」

 豊田が志賀に電話をかけたのには、理由があった。というのは、当初、ルネサスは自動車メーカーからの応援を断ったのだ。自動車メーカーには、半導体工場の復旧作業はできないという理由からだ。半導体工場は、ノウハウのかたまりである。そこに外部の人間が入れば、ノウハウ流出の恐れがある。ルネサスは、それを危惧したと思われる。

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家

愛知県名古屋市生まれ。2001年~2011年までの10年間、学習院女子大学客員教授を務める。企業経営論の日本の第一人者。主要月刊誌『中央公論』『文藝春秋』『Voice』『潮』などのほか、『週刊エコノミスト』『SAPIO』『THE21』など多数の雑誌に論文を執筆。経済、経営、政治など幅広いテーマを手掛ける。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)は8万部のベストセラー。著書は60冊を超える。中国語、韓国語への翻訳書多数。

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