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二階堂ふみ主演『蜜のあわれ』が描く、エロスとタナトスの相克ーー石井岳龍監督の新境地を探る

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【リアルサウンドより】

「おじさんも人間の女たちがもう相手にしてくれないので、とうとう金魚と寝ることになった」(室生犀星『蜜のあわれ』)

 石井岳龍監督の最新作『蜜のあわれ』は、明治〜昭和期に活躍した詩人・作家の室生犀星が晩年(1959年。発表当時69歳)に発表した同名小説の映画化である。叙情的な作風として知られる室生作品の映画化といえば成瀬巳喜男、今井正といった名匠によって何度もリメイクされた家族ドラマの名作『あにいもうと』が思い浮かぶが(個人的には秋吉久美子が主演した1976年今井正版が印象深い)、この作品はまったく趣が異なる。金魚の化身である少女・赤井赤子と、70歳になる老作家・上山、そしてかって作家を愛していた女性・田村ゆり子の幽霊、という3者の三角関係を描くエロティックで奇想天外な幻想小説なのである。しかもこの作品は全編が登場人物の会話のみで成り立つという前衛的手法の小説でもある。地の文がないことで、作品世界の中の客観性が担保されない。金魚の化身である「あたい」が、蘇った女性の幽霊がどういう姿形なのか、わからない。起こっている出来事も、登場人物の断片的な会話の中からくみ取るしかない。すべては読み手の想像力に委ねられるのである。これを映像化するのは極めて難事業であることは容易に察しがつく。

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