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雨宮寛二「新・IT革命」

アマゾン、持っていることを忘れるほど軽い3万6千円の電子書籍専用端末は売れるのか

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サイト「アマゾン」より
 米アマゾンが4月13日、電子書籍端末「Kindle」の第8世代となる新型モデル「Kindle Oasis(キンドル・オアシス)」を全世界で同時発表した。電子書籍専用端末でありながら、ハイエンドモデルにポジショニングされるこの新端末には、アマゾンのいかなる戦略性が込められているのであろうか。


 今回、アマゾンは新型モデルの開発に当たりデザインを含めて従来とは異なるアプローチで、ゼロベースから電子書籍専用端末のあり方を模索した。すなわち、それを利用する究極の目的を「読者が端末の存在を忘れるくらい単純に読書に没頭できる環境をつくり出すこと」ととらえ、その条件として、「従来の本と同じ感覚で読書がより楽しめること」「持っていることを忘れるほど軽く持ちやすいこと」「充電にわずらわされないこと」の必要性を掲げた。

『アップル、アマゾン、グーグルのイノベーション戦略』(雨宮寛二/エヌティティ出版)
 設定した目的と条件を実現するためにアマゾンは、今回「デザイン思考(Design Thinking)」のアプローチを取り入れた。これは、人間中心のデザインによりモノをつくり出す発想法で、その狙いは顧客価値と市場機会の創出にある。

 アマゾンはオアシスを人間工学に基づいてデザインし、理想的な読書スタイルの実現を目指した。

 まず、従来のタブレットのバックライトのように目に向かって後ろから光照射せず、端末内部のライトがスクリーンの表面を通してディスプレイ全体を照らすことを可能にし、さらにはフロントライトLEDを60%増やすことでさらなる読みやすさと目の負担の軽減を図った。また、筐体では段差を設けて手に持つ側を厚くして、重心を手のひら側に20%程度寄せることでより持ちやすくした。

 デザイン思考を取り入れたこうした試みは、あくまでも既存技術の改良や改善にすぎない。すなわち技術の進歩である。最近では、デザイン思考があたかもイノベーションを起こす方法論としてとらえられているが、残念ながらデザイン思考では革新的な製品やサービスを生み出すのは難しい。韓国サムスンのギャラクシーがその最たる例だ。ギャラクシーは画面サイズの拡大化とスタイリッシュなデザイン性で市場機会をつくり出した。

汎用性のあるタブレット端末との競争は不可避


 今回、アマゾンはオアシスをハイエンドにポジショニングした。電子書籍専用という汎用性のない端末でありながら、価格を289.99ドル(3万5,980円)に設定している。専用端末というニッチ市場で競争を回避するという狙いもあるが、同価格帯で中国ファーウェイや台湾エイスースといったメーカーの汎用性のあるタブレット端末との競争は避けられない。

 2016年度の日本国内の電子書籍専用端末出荷台数が、タブレット端末の1割前後の規模にとどまるとの見通しを示している調査結果も散見される。「真の電子書籍端末」はこれだと言わんばかりに開発したオアシスは、果たしてハイエンドの需要を取り込めるだろうか。
(文=雨宮寛二/世界平和研究所主任研究員)