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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」

「逃げる」脳…脳は重要な決断時ほど、感情と他人の言葉に左右されるようにできている

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授

 もっとも、数字で表現できれば安心できるというわけではない。たとえば、地震予知で「今後30年以内に地震が発生する確率が80%」といわれるのと「50%」といわれるのでは、どちらが安心だろうか。50%だからといって、安心するわけでもないだろう。そういった人間心理を明らかにした実験が今年、英国UCL大学で行われた。

 実験では、45名の被験者がコンピュータゲームに挑戦した。ゲームの内容は、スクリーン上の石をひっくり返すのだが、石の下に蛇が隠れていることがあり、もし蛇が出てくると痛みを伴う電気ショックを手に受けるというものだ。電気ショックを避けるため、被験者は、さまざまな手がかりから蛇が隠れていない石を選択しようと考える。

 この実験で明らかになったのは、電気ショックを受けるとわかっているよりも、受けるか受けないか曖昧な状況にあるほうがストレスは大きいということだ。石をひっくり返す時に、蛇が隠れているかどうかの予測がまったくつかない場合は、電気ショックを受ける確率が50%となる。その時に感じるストレスは、確率が0%や100%の場合よりも大きくなるのだ。ちなみに、ストレスの度合いは自己申告や、皮膚の発汗、瞳孔の大きさなどでチェックしている。

 驚くべきことは、今からひっくり返そうとしている石の下に確実に蛇が隠れている(確率100%)と思っている時に感じるストレスよりも、どちらか明確でない曖昧な(確率50%)時に感じるストレスのほうが高いということだ。どんなに否定的な結果であろうと、先行きが見えない時よりもストレスが少ないのだ。

 余談だが、不良在庫処分を小出しにする経営者は多いが、投資家の心理からいえば、まだ在庫があるのではないかという不安材料があるよりは、一気に在庫の評価損を出しきってくれたほうが株価への悪影響は小さくなることが多い。

 紹介した2つの実験からも、今の不確実な社会に生きる人間の不安度、そしてストレスがどれだけ高いかがよくわかるはずだ。

 不確実な状況において、人間は理性より感情や直感に基づく行動をとりがちになる。なぜなら、恐怖の変形である不安を感じており、「いつでもすぐに『逃げるか戦うか』の行動を早急にとらなくてはいけない」という心理状態になっているからだ。「じっくり論理的に考える場合ではない」と脳は判断している。論理的思考なしに判断を迫られているわけだから、他人の言動に左右されやすく、状況次第で大きく行動を変える傾向が高い。曖昧な状況を脳は一番嫌うため、早く白か黒かの決着をつけたいと思っているのだ。だが、自分で決めることができないので、誰かにきっかけを与えてほしいと思っている。

 不確実な時代にリーダー(政治家、経営者)は、どういったメッセージを一般市民に(あるいは消費者に)発信すべきなのだろうか。次回は、そのあたりを検討したい。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学客員教授)

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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