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江川紹子の「事件ウオッチ」第59回

【相模原殺傷事件】で危惧される暴力の連鎖とメディアの「責任」

文=江川紹子/ジャーナリスト
【相模原殺傷事件】で危惧される暴力の連鎖とメディアの「責任」の画像1逮捕された植松聖容疑者(ロイター/アフロ)

 相模原市の知的障害者施設で入居者19人が殺害され、26人が重軽傷を負った事件は、本当に衝撃的だった。重度の障害者は殺した方が「日本国と世界平和の為」になるという、強い差別的な“思想”に基づいた確信犯であり、「ヘイトクライム」と呼ぶべきだろう。

外れてしまった“歯止め”

 世の中には、植松聖容疑者の“主張”を「正論」と言い、共感する人もいるらしい。インターネット上では、そうした記述が散見される。また、昨今では差別と憎悪に満ちた“本音”を、公衆の面前で大音量でがなり立てるヘイトスピーチをすることに、恥ずかしさを覚えない人も増えている。今回の事件は、そうした社会状況の行き着く果てであるといえるかもしれない。

 ただ、それでも「言う」のと「やる」のでは大違いである。在日朝鮮人について「殺せ!」とわめくのと、実際に大量殺人に及ぶのでは、やはり次元が異なる。植松容疑者は、いったいなぜ、歪んだ“思想”を実際の行為に移してしまったのだろうか。

 彼は、2月頃から「障害者は死んだほうがいい」などと発言するようになり、そして、同月半ばに、衆議院議長公邸に手紙を届けている。

 手紙の中で彼は、障害者殺害は「全人類のために必要不可欠」とし、自分がそれを実行することができると書いた。ただし手紙には、「逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせてください」「新しい名前、本籍」「金銭的支援5億円」などの「要望」を列挙。そのうえで「ご決断いただければ、いつでも作戦を実行致します」とも書かれている。

 大量殺人をやりながら、何不自由のない人生を保証してもらいたい。そんな身勝手な文面からは、社会での生活、人生への未練が感じられる。どんなに差別的で、邪悪な思想の持ち主であっても、自分自身の自由や生命への未練や執着があれば、凶悪犯罪への歯止めにはなるだろう。彼の場合、どこでその歯止めが外れてしまったのだろうか。

 当然ながら、彼の「要望」を受け入れる「決断」など、誰もしているはずがない。これだけの事件を引き起こせば、死刑になる可能性が高い。秋葉原通り魔事件や池田小学校事件などでも、弁護人は心神耗弱を主張したが、それは退けられて死刑が確定している。メンタルな病歴があるからといって、心神耗弱が認められるものでもない。それにもかかわらず、彼は実行した。

 報道によれば、彼がハンマーや結束バンドを購入したのは、事件前日という。その後の保証がなくてもやる、と最終的な決断をしたのは、案外、事件の間際だったのかもしれない。いったい何が彼の心のスイッチを押したのだろう。

 この点は、今後の捜査や裁判の中で、ぜひ明らかにしてほしいことのひとつだ。複数の専門家による精神鑑定を行い、事件を起こす経緯は、十分時間をかけて丁寧に、多角的に解明してもらいたい。

繰り返し垂れ流された容疑者の言動

 予断を抱かず、裁判で詳細がわかるのを待ちたいと思うが、私が今、気になっていることのひとつが、世界各地で多発している暴力とその報道の影響がなかったかという点だ。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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