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江川紹子の「事件ウオッチ」第59回

【相模原殺傷事件】で危惧される暴力の連鎖とメディアの「責任」

文=江川紹子/ジャーナリスト

 これでは、社会に衝撃を与える事件を起こせば、自分の主張をマスメディアで大々的に伝えてもらうことができる、という誤ったメッセージになりはしないか。身柄を送検される時、大勢のカメラが護送の車を取り囲むのを見て、植松容疑者はうれしそうに笑っていた。窓越しに浴びせられる強いフラッシュを、楽しんでいるように見えた。

 世の中には、このような犯罪を非難する人ばかりではない。神戸児童殺傷事件で「酒鬼薔薇」を名乗った犯人や、秋葉原通り魔殺人事件の加藤智大死刑囚を「神」と崇めるなど、犯罪者を称賛したり、それに影響を受けて自分も事件を起こしたりする人もいる。そのことも、報道機関は気に留めておく必要があろう。

 海外では、報道機関が衝撃的な事件の伝え方を考え始めている。

 テロ事件が続いたフランスでは、ル・モンド紙が、社説で「殺人者が死後に称賛されるのを避けるため、今後は写真を掲載しない」と宣言した。テレビも名前や映像を控える動きが出ているが、メディアによって判断が異なる、という。

 連鎖が懸念される自殺に関しては、世界保健機関(WHO)がメディアのためのガイドラインを策定。「自殺をセンセーショナルに扱わない」「過剰に繰り返し報道しない」「自殺に用いられた手段を詳しく伝えない」「自殺に代わる手段を強調する」など、報道の仕方に注意を求めている。

 日本では、一時、ネットで仲間を募って練炭自殺をするケースが連続した。当初は、大きく報じられたが、その報道がこうした自殺方法を広めているという批判もあり、メディアは自殺報道には一定の配慮はするようになってきた。

 では、政治的な意図で行われるテロ事件や、今回のような特異な“主張”に基づいた事件での報道のあり方はどうあるべきか。メディアは、今回の事件を報じるこれまでの報道を振り返り、読者・視聴者と共に議論を始めてもらいたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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