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白井美由里「消費者行動のインサイト」

なぜ、キツい仕事後にチョコケーキを選ぶのか?私たちを「快楽的消費」に走らせる正体

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

快楽的消費の罪悪感と正当化

 多くの研究者の間で共通する見解は、快楽的消費は魅力的であるにもかかわらず、必需品ではなく、また、商品によっては浪費や健康への悪影響も懸念されるため、消費者にとって購買の正当化がしにくく、罪悪感を持ちやすいということです。これは、消費者自身の納得感のようなものです。このことから快楽的消費は「悪徳」、実用的消費は「美徳」と呼ばれることもあります【註5】。したがって、快楽的消費は正当な理由があれば増えますが、なければ実用的消費のほうが優先されます。

 この正当化の決定要因を調べた研究があります。キベツとゼングは労力の大きさに着目しました【註6】。被験者に骨折り作業と軽い作業のどちらかをしてもらい、作業後にお礼として濃厚なチョコレートケーキ(快楽的消費)と低カロリーのフルーツサラダ(実用的消費)のどちらかを選択してもらう実験を行いました。その結果、チョコレートケーキを選択した被験者の選択率は、骨折り作業を終えた被験者のほうが軽い作業を終えた被験者よりも高くなりました。努力した自分には好きなことをする権利があると感じ、チョコレートケーキを食べたいという欲求を満たそうとする行為が正当化されたと考えられます。

 カーンとダールは、有徳な行為を行おうとする意図を持つだけで快楽的消費が選択されやすくなることを実証しています【註7】。この現象を「ライセンシング効果」と称しています。実験では、被験者を、自分がボランティア活動を行ったことを想像してもらう場合とそうした想像がない場合のどちらかに割り当て、次に買い物に行ったと仮定してもらったうえで、デザイナージーンズ(快楽的消費)と掃除機(実用的消費)のどちらかを選択してもらいました。

 その結果、ボランティア活動を行ったことを想像した被験者は、そうした想像をしなかった被験者よりも「情け深い」「思いやりがある」「温かい」「役に立つ」などの自己評価が高くなり、選択率もジーンズのほうが高くなりました。一般に、良い行いをすることを考えることで自己評価は高くなります。カーンらは、それが快楽的消費の罪悪感によって自己評価が低下するのを抑えるので、快楽的消費を選択しやすくなったと説明しています。

 これらの研究から、努力や良い行いをした自分へのご褒美として快楽的消費を選択する行為は十分に正当化され、快楽的消費を促進することが明らかにされています。快楽的消費の対象となる商品は、購買を正当化するメッセージや購買の必要性(実用的要素)を高めるメッセージを発信し、罪悪感を軽減するコミュニケーション戦略をとることにより、消費を拡大できる可能が高いといえるでしょう。

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

学部
カリフォルニア大学サンタクルーズ校 1987年卒業
大学院
明治大学大学院経営学研究科
1993年 経営学修士
東京大学大学院経済学研究科
1998年 単位取得退学
2004年 博士(経済学)
慶応義塾大学 教員紹介 白井美由里 教授

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