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上昌広「絶望の医療 希望の医療」

大学病院と医学学会が、日本の医療と若い医師を破壊し始め…新専門医制度という愚策

文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

 前者の代表は、立川・川崎・新宿の駅ナカで営業するナビタスクリニックだ。私も毎週月曜日に新宿で診察している。このクリニックは、平日は午後8時まで、土日は午後2時まで受け付けている。会社帰りの会社員、さらに新宿の駅ナカで働く人たちが受診する。平日昼間に病院へ通えない人たちだ。

 彼らは「名医」や「丁寧なサービス」以上に「便利さ」を追求する。ナビタスクリニックは、このニーズを捉えている。患者数は3つのクリニックを合計して、1000人を超える日も珍しくない。ナビタスクリニックを率いるのは久住英二医師だ。もとは骨髄移植の専門家だった。先端医療から転身したことになる。

 便利さを追求するのは、わが国に限った話ではない。米国では昨年、薬局やスーパーに併設されるリテール・クリニックが900%も成長した。オバマケアにより中間層が医療にアクセスしやすくなったからだ。

 宅配サービスは、改めていうまでもない。在宅診療が代表例だ。在宅診療に求められるのは、プライマリーケアのスキルだ。大学病院や専門病院が得意とする領域でない。今後、この領域は成長する。アマゾンやクロネコヤマト、ドローン、さらにITを用いた遠隔診療とも連携することになるはずだ。わが国でエッジの効いたサービスを確立すれば、経済成長著しいアジアに進出することになるだろう。

 筆者の東大医学部の3年後輩の武藤真祐医師が、その先駆者だ。彼も循環器内科の専門医から転身した。これまで東京都内と宮城県石巻市で在宅診療を行っていたが、最近、シンガポールにも進出した。今後、香港などアジアでの展開を考えているという。

 繰り返すが、大学病院は高度医療に重点を置いてきた。一方、医療界に求められるのは、患者の価値観に合わせて、多様なサービス提供方法を確立することだ。久住医師や武藤医師は、このような時代の変化にうまく対応した。従来型の「専門医」と比較して、今後、彼らのような「専門医」のニーズが高まる。若手医師は、どのようなキャリアを選択するか、自分の頭で考えたほうがいい。

厚生労働省の問題

 新専門医制度が迷走した理由は、大学病院の競争力低下だけが理由ではない。本当の理由は別にある。それは「利権」だ。

 ポイントは、専門医の質を保証するため、特定の病院(特に大学病院)で研修することを義務づけたことだ。どの病院も若手医師が欲しい。安い給料で長時間働き、病院に収益をもたらすからだ。新専門医制度ができれば、無条件で研修施設に認定される大学病院は有利な立場に立つ。学会を仕切っているのは大学教授だから、我田引水である。

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。
医療ガバナンス研究所

Twitter:@KamiMasahiro

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