ビジネスジャーナル > 企業ニュース > なぜ日本企業はM&Aで失敗?  > 2ページ目
NEW
手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授

 実は、この段階で失敗してしまうと、たとえ後半のPMIのスキルがどれほど高くても、挽回することは困難になります。野球にたとえると、先発投手が前半で5点も取られてしまえば、後半で試合をひっくり返すのが難しいのと同じです。先発投手にクオリティスタートを求めるように、M&Aでは前半のフェーズでしっかりと対応してほしいところです。

 では、前半のフェーズでどのような失敗が起こるのでしょうか。それは、買収価格を高く設定しすぎてしまう「高値づかみ」です。当然なことですが、M&Aから期待されるシナジー効果以上の買収プレミアムを支払えば、企業価値が破壊され、株価が下落することになります。M&Aを発表すると株価が下落するケースをよく目にしますが、その原因は、買収プレミアムを支払い過ぎているのが原因なのです。

なぜ買収プレミアムを支払い過ぎてしまうのか

 外部から見ていると、なぜそれほどの金額を買収プレミアムとして支払うのか、と疑問に思うことがありますが、結論から先にいえば、「支払い過ぎないと買収できない」という不思議なメカニズムがM&Aには組み込まれているのです。

 では最初に、どのように買収プレミアムを決定するのかを考えていきましょう。これは非常にシンプルで、買収により期待されるシナジー効果の現在価値を算出するだけです。具体的にいえば、2つの会社が1つになることにより、売上が伸びたり(売上シナジー)、コストが減少したり(コストシナジー)することが期待されます。その結果として、企業価値の源泉であるフリーキャッシュフローも増加するはずです。その増分の現在価値こそがシナジー効果による企業価値創造の期待値となります。仮にここでは、その額が100億円だとしておきましょう。

 そこで問題になるのは、100億円のシナジー効果を手に入れるのに買収プレミアムとしていくら支払うのか、ということです。仮に100億円を買収プレミアムとして支払えば、どうなるでしょうか。つまり、100億円を手に入れるために100億円を支払うということです。当然のことですが、効果はゼロです。企業価値が創造されることありません。いうまでもなく、買い手としては、買収プレミアムを100億円以下に抑えなければ意味がないのです。しかし、現実では、100億円を得るのに120億円を支払うようなことがあるため、M&A発表の直後に株価が下落してしまうのです。

 なぜこれほど当たり前なことができないのか。

 理由は2つあります。まずは、シナジー効果の算出が極めて難しいことがあります。2つの会社が1つになれば、もちろん売上シナジーやコストシナジーが期待できますが、将来の話であるため、正確に数値を予測することが難しいのです。過度に楽観的になってしまえば、過度なシナジー効果を期待することにより、過度な買収プレミアムを支払うことになりかねません。

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

なぜ日本企業はいつもM&Aで「高過ぎる金」払い失敗?日本電産の失敗しない究極手法のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!