「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
コメダ珈琲店が津軽海峡を越えた。8月10日、北海道札幌市白石区に「コメダ珈琲店 東札幌5条店」がオープンしたのだ。道内初上陸とあって地元メディアの関心も高く、前日の9日には、北海道テレビ(HTB)、北海道放送(HBC)、札幌テレビ(STV)のテレビ局3社が取材に訪れ、夕方の情報番組などで報道した。それもあってか、当日には最大で60人以上の行列となるほど大きな話題を呼んだ。
筆者は9日に現地入りして、10日までを密着取材した。今回は番組で報道されなかった開業前日の舞台裏を紹介し、新店舗の立地選びについても言及したい。
店舗近隣の住民への配慮
オープン前日の9日、午前と午後の2回に分けて店内でレセプションが実施された。地域住民にコメダ珈琲店のメニューを無料で味わってもらう催しだ。
東札幌5条店は、札幌市営地下鉄東西線・東札幌駅から徒歩7~8分の場所で、周辺にはマンションも立ち並ぶ。こうした郊外型店は、店舗工事を始める前の挨拶など地域住民への配慮が欠かせない。工事中の騒音や開業後の交通往来で迷惑をかけるからだ。そうした調整もうまくいったようで、店内には「東札幌第五町内会」から贈られた花輪も飾られていた。
店内で懇談中の年配女性グループに声をかけたところ、同町内の婦人たちだった。皆さんコメダ珈琲店は初めての体験で、「すごく量が多いのね」と注文したサンドイッチやフードのボリュームに驚いていた。店内の雰囲気にも好印象で、朝7時から夜23時まで営業する点も気に入ったようだ。
「喫茶店でこんなに夜遅くやっているところはないから、お客さんが来た時にお連れすることもできますね。朝早くから営業しているので、人気が一段落したら夫を誘ってモーニングを食べに来るつもりです」(同町内会の65歳女性)
近くのマンションに住むという別の女性2人組は、「朝、会社に行く前にモーニングしようと思っています。会社のみんなも『来たい』と言っていたので、今度はここで待ち合わせしようかな」と笑っていた。コメダのモーニングの認知度は高いようだ。
店にとって、レセプションは翌日の予行練習も兼ねている。たとえば、注文を受けた飲食をあまり待たせずにつくり、スムーズに提供できるかどうか。実はオープン当初の数日間は、名古屋や東京の本部社員も制服に着替えてホールや厨房に入りサポートする。新店のスタッフが笑顔で接客できるか、調理手順に問題はないかなどのチェックも行うのだ。