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筈井利人「一刀両断エコノミクス」

ここ最近の公取委の「活躍」に重大な懸念…「市場独占=消費者に不利益」の大嘘

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独禁法制定の本当の狙い


 面白くないのは、スタンダード石油に勝てない競争相手たちである。彼らは連邦政府に働きかけ、1906年、同社を独禁法(1890年制定のシャーマン法)違反で提訴させることに成功する。

 独禁法の目的は消費者保護とされる。しかしスタンダード石油が消費者の利益を損ねたという米政府の主張には、無理があった。前述のとおり、同社はきわめて効率的な経営により、石油価格を下げ、品質を高め、競合相手にも同様の努力を促したからである。

 市場で高いシェアを握る企業が生産量を減らし、価格を吊り上げた事実が見当たらないのは、スタンダード石油だけではない。経済学者トーマス・ディロレンゾによると、同時期に政府から独占として提訴された企業の生産量は、1880年から1890年までの間に平均175%増えた。これは国民総生産(GNP)の増加率(24%)の7倍にも達する。この間、製品価格は大きく下落した。消費者物価指数が7%の下落だったのに対し、鉄製レールは53%、精糖は22%、鉛は12%、亜鉛は20%それぞれ値下がりしている。

 当時トラストと呼ばれ、政治家やジャーナリストから非難されたこれら大手企業は、物価を引き下げ、むしろ消費者に利益をもたらしたのである。その事実は議会でも認識されていた。ある下院議員は独禁法案の審議で「トラストは製品を安くし、価格を下げた」と発言している。

 一方、この議員は独禁法制定の本当の狙いについてこう述べている。

「しかし、たとえば石油の値段が1バレル1セントに下がったとしても、トラストが国民に及ぼした害悪は正当化されない。まっとうな競争を破壊し、まっとうな商売から正直な人々を追い出したのだから」

 つまり真の狙いは、消費者を守ることではなかった。経営効率が悪く、値段の高い製品しか提供できない競合企業を守ることだったのである。

本当に消費者の利益のため


 独禁法が政治の武器として悪用されたケースは、スタンダード石油だけではない。近年では、1998年のマイクロソフト社に対する訴訟がある。同社が市場での独占的立場を悪用し消費者の利益を侵害しているとして、米司法省と20の州が起こした。

 経済学者スタン・リーボウィッツとスティーブン・マーゴリスによると、マイクロソフトが参入しなかった市場では製品価格の下落が15%にとどまったのに対し、参入した市場ではおよそ60%と大幅に値下がりした。消費者の利益を侵害するどころか、むしろ大きな利益を提供している。