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首も体もボロボロで脳障害も…プロレスラー、ついに運営団体を提訴!

文=ソマリキヨシロウ/清談社
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首も体もボロボロで脳障害も…プロレスラー、ついに運営団体を提訴!の画像1「Thinkstock」より

 新日本プロレスのV字回復により、再燃中のプロレスブーム。しかし、いくらエンターテインメントとはいえ、巨体の男たちがぶつかりあえば脳障害などの身体的なリスクがつきまとうのは当然だ。

 実際、アメリカでは最近、引退した人気レスラーたちが世界最大のプロレス団体「WWE(ワールドレスリングエンターテインメント)」に対し、「レスラーの健康や安全を犠牲に企業利益を得た」と損害賠償などを求める訴訟を起こして話題となっている。

 ところが、この前代未聞の事態にも日本のプロレスメディアは沈黙を貫いたままで、問題の本質が報道されることはほとんどない。なぜ、今プロレスの「脳障害リスク」が大きな問題になっているのか。

一歩間違えば命を失う、プロレスの危険性

 今年7月、年に一度のWWE日本公演が両国国技館で開催された。WWE は世界最大のプロレス団体であると同時に、北米を中心に世界中をサーキットし、テレビ中継の視聴者数は6億世帯以上、インターネット動画サイトの加入者は130万人以上という巨大なビジネスを展開している、世界有数のコンテンツ企業でもある。

 国際的な人気を誇るプロレス界のスーパースターたちが来日しただけでなく、年頭に新日本プロレスから電撃移籍を果たしたトップレスラーの中邑真輔が凱旋を果たすとあって、会場は満員御礼。鍛え上げられた肉体を持つレスラーたちのド派手なパフォーマンスは、マスコミ席に並んだ記者たちも思わず大声援を送るほどの盛り上がりを見せた。

 そうした中で、このプロレス人気に冷水を浴びせるかたちとなったのが、引退した人気プロレスラーたちによる訴訟だ。「脳などの損傷を患ったのは、過酷な試合のせい」として、当時所属していたWWEに損害賠償などを求める訴訟をアメリカ・コネチカット州の連邦地裁に起こしたのである。

 この前代未聞の集団訴訟の原告には、アニマル・ウォリアーやポール・オーンドーフ、キングコング・バンディなど、日本でも人気のあった大物レスラーをはじめ、女子レスラーを含む総勢50人以上が名を連ねているという。

 しかし、なぜ元レスラーたちはWWEに損害賠償請求訴訟を起こしたのだろうか。「そもそも、プロレスの試合は肉体的なダメージを受けることが大前提になっているのです」と話すのは、ベテランのプロレス記者・A氏だ。

「総合格闘技と違い、プロレスは『相手の技を受ける』という要素があるので、どうしても体へのダメージが蓄積されてしまいます。だからこそ、プロレスラーはハードな練習によって肉体を鍛え上げるわけです」(A氏)

「相手の技を受けてナンボ」の世界である以上、後から「こんなにダメージがあるとは知らなかった。補償しろ」というのは筋が通りにくい。しかも、「技を受ける」ことに関しては、アメリカよりも日本のプロレスのほうが過酷なのだ。

「日本はプロレス団体が多く、他団体と差別化することもあって、より過激なスタイルに進化してきました。特に、1990年代の全日本プロレスの『四天王プロレス』と呼ばれるスタイルは、極限まで体を鍛え上げた上で相手選手を脳天から垂直に落とすような技を繰り出し合うという、一歩間違えば命を失うような危険なシロモノでした」(同)

 実際、かつて全日本プロレスで2代目タイガーマスクとして活躍し、その後、プロレスリング・ノアを立ち上げるなど、過激な受け身に定評のあった故・三沢光晴は、四天王プロレスが直接の原因ではないものの、2009年6月に試合中に命を落としている。

「ほかにも、蓄積された頭や首へのダメージが原因で引退した選手はたくさんいますし、現役選手の場合も、体がボロボロになりながら、なんとか試合に出続けているレスラーがほとんどです」(同)

WWE訴訟の裏にアメフトリーグの訴訟騒動

 こうしたプロレス界の過酷な状況にストップをかけたのが、ほかでもないWWEだったのである。WWEは現在、危険な技を禁止にし、過激な試合形式を控えるなど、本格的な安全対策に乗り出している。WWEに詳しいスポーツライターが語る。

「プロレスをビジネスとして考えると、人気レスラーがケガで欠場したり、引退されたりするのが一番困る。エンターテインメントであるからこそ、選手の安全性の確保は企業として非常に重要なのです。そこで、WWEは『パイルドライバー』のような、日本では当たり前に使われている技も『危険』とみなして禁止しています。脳しんとうなどで欠場した選手は復帰させず、そのまま引退するケースも増えています」

 実際にWWEでチャンピオンにまで上りつめた人気レスラーのダニエル・ブライアンは、脳しんとうで欠場後、そのまま引退に追い込まれている。WWEでは元レスラーがフロント入りして現場を管理し、逆にフロント陣もトレーニングを積んでリングに上がることもある。経営側もレスラーも、このビジネスの肉体的な過酷さを理解し、そのリスクに対しても最大限の安全策をとろうとしているわけだ。

 それでは、なぜWWEは元レスラーたちから損害賠償請求訴訟を起こされたのか。そこには、アメリカの国民的スポーツであるアメリカンフットボールのプロリーグ「NFL」の「コンカッション(脳しんとう)訴訟」の影響があるという。

NFLでは、引退した選手が次々に認知症を発症したり、自殺や不審死したりするなどのケースが続出しています。その原因は、現役時代に激しいタックルを受けた脳しんとうによる『慢性外傷性脳症(CTE)』と因果関係があるとされ、4500人以上の元選手たちによる集団訴訟に発展。

 NFL側は当初、スーパーボウルを頂点とするフットボールの巨大ビジネスへの影響を恐れてCTEとの因果関係を認めようとしませんでしたが、最終的に10億ドル近くの賠償金で和解することになりました。この事件はウィル・スミス主演で『コンカッション』というタイトルで映画化され、10月末に日本でも公開(配給:キネマ旬報DD)される予定です」(スポーツライター)

使い捨て同然で恨みを買っていたWWE

 アメフトは、プロレス同様に激しいフィジカルコンタクトが前提のスポーツである。そのアメフトの脳障害リスクがアメリカ社会で大きな問題となり、元選手らがNFLから莫大な賠償金を獲得した。それに便乗して元レスラーたちが集団訴訟に踏み切った……という可能性が考えられるのだ。別のプロレス記者・B氏が語る。

「WWEは、人気が落ちた選手に対して冷酷に契約を解除する『使い捨て』の風潮があり、元レスラーたちの恨みを買っています。それも、集団訴訟の背景にあるのでしょう。現在のWWEの人気は、かつての人気レスラーたちの身体的リスクを伴う激しい試合の上に成り立っている。そうであれば、団体側がなんらかの補償をしてしかるべきでしょう」

 日本にも、激しい試合と引き換えにボロボロになり、その後遺症を抱えて引退後の人生を送っている元レスラーが数多くいる。プロレスの脳障害リスクはレスラーの「自己責任」なのか、それとも「団体側が回避できたリスク」なのか。今回の集団訴訟の結果によっては、日本のプロレス界も対岸の火事では済まされない問題となりそうだ。
(文=ソマリキヨシロウ/清談社)

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清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

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