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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

なぜIBMは、驚異的なピカピカ財務?小手先の財務改善が企業を滅ぼす?

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授

IBMのリキャップSB

 米国では、コカ・コーラやIBMなど多くの企業が以前から実施しており、特に目新しい手法ではありません。IBMに関しては、この手法により財務レバレッジが上昇し、自己資本比率が2000年の23.3%から15年には12.9%にまで下落しており、発行済み株式数は、2000年末の17億4000万株から15年末には9億6600万株にまで約45%減少しています。また、売上高当期純利益率が約26%と高水準となっているため、ROEは101.1%と驚異的な水準となっています。

 日本においても、日本取引所グループや第一三共がこの手法の活用を発表しており、今後広く活用される可能性は高いでしょう。

 第一三共は、16年7月に期間20年と30年の社債を発行し、総額1000億円を調達しました。また、同年6月に自社保有分を除いた発行済み株式の4.1%に相当する2800万株、500億円を上限に自社株を取得すると発表しています。そこで、仮に500億円の自社株買いを社債発行による資金で実行するリキャップSBで実施したと仮定すると、16年度第一四半期において64.4%であった自己資本比率は、60.1%に下落するため、財務レバレッジの影響によりROEを改善させることになります。

 もちろん、高コストの株主資本を低コストの負債に置き換えることにより、若干株主資本コストが上昇するものの、両者の加重平均で算出されるWACCは減少することになります。同社の自己資本比率の水準であれば、特にリスクもなく、いいとこ取りができると考えられます。

リキャップSBのリスク

 これまで日本企業は、余剰現金を活用して地道に自社株買いを実施してきました。しかし、リキャップSBを活用することになると、手っ取り早く財務レバレッジを高めることが可能です。低金利だからといって社債を発行し、適正水準を超えてリキャップSBを実施してしまうとROEは改善しますが、リスクも伴います。自己資本比率やキャッシュフローの安定性などを考慮したうえでリキャップSBの活用を判断する必要があります。

最適資本構成には要注意

 ファイナンス理論では、WACCを最小化する最適資本構成が存在すると考えられています。WACCが最小化されれば、企業価値が最大化されることになるため、資本と負債の比率である資本構成を調整することにより、最適な水準を実現するのが理想とされます。もちろん、高コストの株主資本を低コストの負債に置き換えることにより、一般的にはWACCは減少することになりますが、注意すべき点があります。

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

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