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江川紹子の「事件ウオッチ」第64回

もはや理想主義者による自己満足の結晶!? 異論噴出の【日弁連・死刑廃止宣言】の現実離れ度

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日弁連が採択した、死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言(日弁連HPより)


 日本弁護士連合会が福井市で開いた「人権擁護大会」で、死刑廃止を含む刑罰制度の改革を求める宣言を採択した。犯罪被害者を支援する弁護士などから反対の声も少なくなく、採択後も賛否双方の声が挙がっている。


独善的な「正義」に根ざした理念

 死刑廃止の問題ばかりがクローズアップされているが、宣言は、1)刑罰制度全般についての改革 2)死刑制度廃止 3)受刑者の再犯防止・社会復帰のための法整備――の3部構成になり、そこで取り上げられている問題は多岐に渡る。

 宣言主文と提案理由を一読して感じたのは、努力をすれば人々の合意を得て改善が可能に思われる現実的課題と、「理念」が先走って現実的とは言い難い事柄がごった煮状態であること。これでは政策提言からはほど遠く、現実を動かす力にならないのではないか。しかも、その「理念」はかなり独善的な「正義」に根ざしており、これでは運動方針としてもどうなのか、という気がする。

 たとえば全般的な改革案の中で、同宣言は、刑務所で強制的に労働を行わせる懲役刑を廃し、希望した受刑者のみに労働の機会を与え、労働の対価としての賃金を支払うよう求めている。

 現在の日本の拘禁刑には、刑務作業を課す懲役刑と作業を義務付けない禁固刑がある。刑務作業には、縫製や木工、自動車整備などの生産活動のほか、刑務所内の調理場や洗濯工場で働く自営作業、職業訓練などがある。

 こうした作業を行っても、労働の対価としての「賃金」は支払われず、服役態度や作業の熟練度などに応じて「作業報奨金」が与えられる。ただ、その金額はあまりに安い。法務省によれば、昨年度予算における1人1カ月あたりの作業報奨金は、平均約5,317円。時給に換算すれば、1日8時間、月に20日間作業に従事したとして、33円である。これを財政状況が許す限りアップし、まじめに働けば、月に数万円程度は稼げるようにすることには、異論は少ないのではないか。それによって、出所時の生活再建費用が準備できれば、再犯防止の対策になるし、被害者がいる犯罪では賠償に当てることも可能だろう。

 ただ、懲役刑そのものを廃し、労働を受刑者の「義務」ではなく、「権利」と位置づけることは、どうだろうか。これは、今の行刑制度に、抜本的な変革を求めるものだ。現在の刑務所は、受刑者が作業する「工場」を数少ない刑務官が監督するのが基本となっている。労働の権利を行使する受刑者とそうでない者が混在する状況になれば、現態勢で所内の秩序や受刑者の安全が保たれるのか、という現実的な問題も考えなければならない。その他、これに伴うさまざまな問題を、日弁連は検討したのだろうか。

 宣言の提案理由の中には、刑罰のあり方についての理念が述べられているが、そこにはこんな記述がある。ヨーロッパのいくつかの国の刑務所では、配偶者や恋人との性交渉可能な面会も「人権」として認められていることなどを挙げ、日本の刑罰も「このような取扱いこそ目指すべき方向ではないか」と。身柄を刑務所に収容しておく以外、あらゆる権利や自由を保障するのが、刑罰の理想だと提案者は考えているようだ。

 私自身は、受刑者が社会から断絶されている日本の行刑のあり方に疑問を感じ、また、福祉の分野から刑務所へのアプローチがなされ始めた昨今の変化を好ましく思い、それが一層進むことを願っている。基本的人権の制約は少ない方が望ましく、とりわけ選挙権については、判決で剥奪が宣告されない限り、受刑者も行使できるようにするなど、改善すべき点が多々あると考えている。

 それでも、恋人との性的交渉まで「人権」とする価値観には、にわかに共感しがたい。行刑に日頃あまり関心のない人たちは、なおさらではないか。そのような理念を、こうした宣言の議論に持ち込むところに、一般国民の感覚とは乖離した日弁連執行部の特異なセンスを感じてならない。

内部からも批判・疑問の声が

 死刑の問題では、さらに社会が「目指すべき方向」が打ち出されている。