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江川紹子の「事件ウオッチ」第65回

【沖縄「土人」発言】で露呈した大阪府警の問題体質 威嚇、罵倒、侮蔑はなぜ繰り返されるのか

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 そのような裏付けがなければ、裁判で取り調べの違法性を訴えても、なかなか認められない。西堺署のケースで、元校長が損害賠償を求めた裁判の判決は、大阪府に100万円の賠償を命じたものの、裁判所が違法性を認めたのは、5回あった取り調べのうち録音されていた2回目の取り調べだけだ。ほかの取り調べについては、元校長が詳細なメモをつくって、暴言があったことを主張しても認められていない。

 それを考えれば、裁判所が違法性を認定したケースは、氷山の一角と見るべきだろう。実際には、このような場面は、もっと多いだろう。通訳が同席しているのに、暴力をふるった関西空港署のケースなどを見ると、日常的にこうした威迫は行われていて、慣れきっているのではないかとさえ思う。

 警察官の意に沿わない、または命令に従わない相手には、威嚇し、罵倒し、侮蔑的な言葉を投げつけ、屈服させる。それが、いわば同府警の“伝統芸”になっているのではないか。

 今回、沖縄での暴言が問題となった2人も、そうした風土のなかで警察官としての経験を重ねてきた。報道によれば、2人は日頃は警察署に勤務する警察官という。ネットフェンスにしがみついて工事に抗議し、「立ち去れ」と命令しても言うことを聞かない反対派の人たちに対して腹を立て、いつもの調子で侮蔑的な言葉を吐き捨てたのではないだろうか。

 大阪府警の風土があの発言を招いたと考えると、今回の2警察官を処分すれば済むという問題ではないように思う。

 それにしても、なぜ同府警の体質が、なかなか改まらないのだろうか。

 警察官がその権限を濫用して人権侵害すれば、特別公務員暴行陵虐罪が適用される場合がある。しかし、警察官の人権侵害に対する検察の対応は甘い。

 たとえば東署事件では、A警部補は特別公務員暴行陵虐罪などで大阪地検に告訴された。しかし検察は、同罪を適用せず、刑罰がずっと軽い脅迫罪のみで在宅のまま略式起訴した。

 公務員の職権濫用罪について、検察官の不起訴処分に不服がある場合には、裁判所に直接公判に付すよう求める付審判請求を起こすことができる。この訴えに対し大阪地裁は「(脅迫罪で起訴されているので)二重起訴になる」として請求を棄却したものの、決定の中で「(A警部補の言動は)脅迫の域を超え、特別公務員暴行陵虐罪の疑いが認められる」と指摘した。

 おそらく検察は、不起訴にすれば付審判請求などが認められて特別公務員暴行陵虐罪に問われることを見越して、罰金刑があって略式手続きが可能な脅迫罪で立件したのだろう。略式手続きになれば、A警部補は法廷に立つことなく、罰金を納めれば終わる。

 ところが大阪簡裁は、「略式不相当」とする異例の判断を下し、正式な裁判を開くことになった。その裁判でも検察側は罰金20万円を求刑したが、大阪地裁は求刑を上回る罰金30万円の判決を言い渡した。

 つまり、この件では検察は、3度にわたって対応の甘さを裁判所から指摘されているのだ。このような検察のかばい立てが、府警の状況改善には逆効果だったのではないか。

指導だけではなく、具体的な対策を

 法律上、都道府県警察は、各都道府県公安委員会の管理下にある。しかし、公安委員会には調査権限などはなく、警察の問題を正す力はないのが現状。また、都道府県知事は、公安委員の任免権、予算の策定権などは持つが、そうした権限を行使して警察の不祥事対策に乗り出すという話は滅多に聞かない。私が記憶する限り、警察の裏金問題がクローズアップされた時に、唯一浅野史郎・宮城県知事(当時)が、県警の捜査用報償費が適正に執行されていない疑いがあるとして、予算執行の停止を決定したことがあるくらいだ。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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