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手島直樹「マーケット・インテリジェンスを磨く」

武田と日立、なぜ容赦なき事業売却を加速?買収より「ノンコア事業」売却を優先すべき

文=手島直樹/小樽商科大学ビジネススクール准教授

 また、より最近の例では、日立製作所が今春の物流と金融の売却に続いて、グループの工具事業と半導体製造装置事業の売却を検討しています。主要グループ会社の日立工機(日立製作所が40.27%保有)のほか、日立国際電気(日立製作所が50.43%保有)の一部事業が対象で、売却総額は1000億円超になる見通しとなっています。売却の背景には、インフラやIT事業へ経営資源を移すなかで、工具や半導体製造装置事業は相乗効果が薄いと判断したことがあります。株式市場の反応を見ると、情報が公表されてから本原稿執筆時点までの期間において、日立株は約12%、日立工機株は約19%、日立国際電気株は約2%上昇しています。まさにウィン・ウィン・ウィンの結果となっています。

会社の規模が縮小するのになぜ時価総額が拡大するのか

 日立製作所のケースが典型的ですが、事業売却の際には株式市場の反応が良いケースが多くなっています。もちろん、事業売却により経営のフォーカスが高まるという定性的な要因もありますが、資産効率性が向上するという定量的な要因も重要となります。

 たとえば、ROIC(投下資本利益率:事業活動のために投じた資本に対して、本業でどれだけの利益を出せたかを測る指標)が10%で、WACC(加重平均資本コスト:企業全体の投下資本に対する資本コスト)が6%の企業があったとしましょう。このケースでは、ROICがWACCを上回っているので、企業価値が創造されていることになります。

 しかし、全社的な分析では企業価値が創造されていたとしても、事業別に分析すると、ROICがWACCを下回る事業もあるかもしれません。こうしたケースを「投資の神様」ウォーレン・バフェットはゴルフのプロアマ選手権と同じだと述べています。つまり、アマチュア(業績が悪い事業)をプロ(業績が良い事業)がカバーするということです。

 結局、会社全体のROICは各事業のROICの加重平均なのです。ですから、ROICがWACCを下回っており、またテコ入れによる改善が見込めない足を引っ張る事業があれば、それらを売却することにより全事業のROICの加重平均は改善するのです。

 しかも、前述のように「勝者の呪い」を逆に利用すれば、事業の価値をはるかに上回る金額で売却できるため、売却資金を残された事業の強化に活用することができ、さらなるROICの改善が期待できます。もちろん、足を引っ張る事業を売却しても企業価値が本来の意味で創造されることはありませんが、企業価値の破壊が止まることになり、企業価値にはプラスになります。結果として、会社の規模は縮小しますが、時価総額は拡大することになるのです。

手島直樹

手島直樹

慶應義塾大学商学部卒業、米ピッツバーグ大学経営大学院MBA。CFA協会認定証券アナリスト、日本アナリスト協会検定会員。アクセンチュア、日産自動車財務部及びIR部を経て、インサイトフィナンシャル株式会社設立。2015年4月より現職。著書に『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(2012年、日本経済新聞出版社)、『ROEが奪う競争力-「ファイナンス理論」の誤解が経営を壊す』(2015年、日本経済新聞出版社)、『株主に文句を言わせない!バフェットに学ぶ価値創造経営』(2016年、日本経済新聞出版社)。

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